第3章 近づく距離
何言ってんだよこの人。
この人に“童貞”と言ってしまったら
一生後悔してしまいそうだ。
偽りでもいいから嘘をつくしかなかった。
「ちげーよ。」
「ふーん…、お前さ嘘つくの下手だな。」
「はぁ?何言ってんだよ、俺は嘘なんか…」
「まぁ、童貞さんにはわからないだろうね。」
言い返すことをやめた。
色々とバレたら面倒だしな。
掃除していたことを思い出して手を動かした。
ホコリは大分無くなった。
ゴミを捨てに行こうとゴミ箱を持ち上げた。
「っ!!」
そのままゴミ箱を落としてしまった。
また床にゴミが散らばっていた。
「お前、腕…痛いんだろ?」
「大丈夫。少し手が滑っただけだ…」
「じゃあさぁ…」
成瀬さんはこっちに向かってゆっくり歩いてきた。
俺の手が自然と震えだす。
成瀬さんの表情は今まで見たことのない
怒っている顔…
『バッッ!!』
俺の腕を強く握った。
「くっ…!!」
「お前、嘘が下手すぎんだよ。」
ギラッと向けられた目は凄い鋭い。
その目を向けられてドキッとした。