第3章 虹村家の娘 3
「この人は死んじゃあいけねぇと思ったんすよ。あんたも億泰も泣いてんじゃあないすか」
言われて初めて、私達は涙を流していることに気が付いた。
「あの、これ…使ってください、どうぞ」
おずおずともう1人の少年がハンカチを差し出してくれた。
「…ありがとう」
素直に受け取り涙をぬぐう。
傷の癒えた形兆は、ひく、とまぶたを動かしてゆっくりと目を開いた。
「兄貴!兄貴ィ!!」
きっと、こんなに泣いた日は他に無いだろう。
それから、東方仗助と広瀬康一と同じ高校に編入することになった。
制服はどうせ改造したんだしと、そのまま着ている。
首元の痕を隠すには長ランが丁度いいし、セーラー服なんて着たら痕まみれの首を晒すことになってしまう。
空条承太郎と会うこともできた。
結果、父親をスピードワゴン財団と言うところで研究してもらい、なおかつ治すスタンド使いを探してもらえることとなった。
弓と矢も預けることになり、先日財団員が引き取りに来た。
が、なんとその弓と矢が行方不明になってしまったのだ。
引き取りに来た団員もともに行方不明。
昼休みの屋上にて、億泰とその話をしていた。
「なぁ、もしかしたら団員がニセモンだったっつーことはねぇのかな?」
「まさか…盗み聞きでもしてなきゃ弓と矢のことなんて分かんないよ、普通」
「でもよー、なぁ~んか胡散臭かったよなぁ~あいつよぉ」
「それか弓と矢が欲しくなって持ったまま逃げたとかだね、あるとしたら」
だろうなぁ、と呟き大きなアクビをした。
と、始業のチャイムが鳴り出す。
「お、やべぇ戻んねぇと」
隣で立ち上がった億泰は、座ったままの私に声を掛けた。
「戻んねぇのか?」
「うん。今日はこのままサボっとく」
そうか、とだけ言って、軽く手を振り屋上からおりていった。
1人になり、雑談の声のざわつきが一気に無くなって静けさが漂う。
形兆の教室はここから見える所にある。
いつものように寝ているのかと目をやると、はた、と目が合った。
起きているのが珍しく、驚いて目線を外せずにいると、フイ、と目を逸らされてしまった。
軽くショックを受けながらも、綺麗な横顔をそのまましばらく眺めていた。