第16章 内緒。・:+°政宗。・:+°
愛する人から料理の感想を聞くのも手ほどきを受けるのもいつもなら嬉しいのに。
政宗をびっくりさせたくて、喜んで欲しくて内緒で作っているのにこれでは何の意味も無い。
明日は・・・バレない様にやろう。
たねを布巾に乗せ、政宗に習った通りに絞ってみる。
コロンと皿に乗せると先程政宗の作った栗きんとんの横に並んだそれをみてため息が出た。
政宗には適わないな・・・
そう思いながら鍋の中のたねに手を伸ばした。
翌日
今朝から秀吉さんのお使いで城と御殿を行ったり来たりしている。
今日は針子部屋には行けなさそうだな・・・
御殿へ向かう途中、一人の男と目が合った。
「これは夕霧様。お久しぶりでございます。」
男は深々と頭を下げる。
あ、政宗の家臣の・・・
「お久し振りです。」
「政宗様が無事到着したと報告する為参上いたしました。」
「政宗はどこへ?」
「国境で小競り合いがあり、それを収める為今朝方出立されました。」
政宗が何も言わずに出かけるなんて珍しい。いつもなら教えてくれるか文を残してくれるのに・・・
でも・・・これはチャンスかも・・・早くは帰ってこないよね?
いつもは無事に早く帰ってきて欲しいんだけど・・・今日はチャンスだとつい思ってしまう。
今なら政宗に見つからずに作れる。
夕餉の片付けが終わったら台所使わせてもらおう。
「あ、ちょっと待ってもらえますか?」
「はい。」
家臣を引き止めて昨日作った栗きんとんを風呂敷に包み渡す。
「私が作ったものなので口に合うかは分かりませんけど皆さんで食べてください。」
「政宗様にお渡しするものでは・・・?」
「政宗にはまた別の物を作るのでこれは皆さんで食べてください。いつも御殿に伺う時お世話になっているほんの気持ちです。」
「ありがとうございます。では、遠慮なく頂戴いたします。」
にこりと微笑み夕霧に一礼すると政宗の家臣は城を後にした。
今日は何作ろう・・・。
夕霧は胸踊らせながら秀吉の御殿へ向かった。