第16章 内緒。・:+°政宗。・:+°
夜
ちらりと台所の戸を開け中を覗く。
「夕霧様。どうかされましたか?」
調理台を拭いている女中達が手を止め夕霧に声を掛ける。
「あ、お仕事終わりましたか?少し台所使ってもいいですか?」
「もちろんです。片付けは私達でやりますから使ったままでお休みください。」
「いえ、使った以上片付けはします。お気遣いありがとうございます。」
ふるふると首を振り有難い申し出を丁重に断った。
せっかく片付けた台所を使っておいてそのままなんて流石に申し訳ない。
ふと調理台に目をやると、野菜籠の中にこの時代には珍しい物が顔を覗かせている。
「これって・・・」
「あぁ、甘藷と言うらしいのですが・・・南蛮の珍しい芋だそうですがどう使っていいのか・・・」
「これもらってもいいですか?」
「夕霧様が宜しければどうぞ。」
「ありがとうございます。」
あぁ、と思い付いたように女中が夕霧に尋ねる。
「昨日の栗きんとんは政宗様に喜んでいただけたのですか?」
「あ、それが・・・」
説明すると女中は苦笑いを浮かべた。
「政宗、今日は戻らなそうなので別の物を作って明日渡します。」
「きっと喜ばれますね。頑張ってください。では失礼致します。」
丁寧に夕霧に頭を下げ、台所を出る女中達にありがとうとお礼を言った。
「よし。頑張ろう。」
甘藷・・・サツマイモだ。
江戸時代に広がったって習ったけど安土城だと流石に手に入るんだ。
よし、作ってみよう・・・
サツマイモを細く切って水にさらす。
さらしたサツマイモを笊に上げ、ストンと座り一息つく。
政宗が安土にいない夜は、早く帰ってきて欲しくて寂しさに呑み込まれそうな時もある。
でも・・・今日は・・・政宗の喜ぶ顔が頭に浮かんで離れない。
帰ってきた政宗を驚かせたい。
会えない寂しさよりも政宗の喜ぶ顔が楽しみでワクワクが止まらない。
水が切れたサツマイモを油に入れる。
ジュッっと激しい音を立てて蒸気が上がる。