第16章 内緒。・:+°政宗。・:+°
亥の刻をとうに過ぎた安土城の台所。
一人竈の前で鍋をかき混ぜ首を傾げる。
これくらいかな・・・?
竈から鍋を外し、もあっと上がる湯気の匂いを鼻いっぱい吸い込む。
わぁいいにおい・・・
鍋の中身は栗きんとんのたね。
なかなか上手に練れた気がする。
あとはこれを布巾で・・・
あれ?こんな形だっけ?うーん・・・
「何してんだ?」
思いもよらない声が後ろからして夕霧はビクッと肩を震わせ後ろを振り向く。
「政宗!?御殿に戻ったはずじゃ・・・」
「忘れ物をした。台所からいい匂いがしたから寄ったんだ。お前何してたんだ?」
政宗は側まで来ると夕霧の手元を覗き込む。
「栗きんとんか。美味そうだな。」
「うん・・・」
夕霧は内心複雑だった。愛する人に会えた嬉しい気持ちとその反面・・・
「あっ・・・!」
政宗が鍋の中のたねをつまんで口に放り込む。
「美味い。上手に練ってある。」
「あ・・・ありがとう・・・」
その光景を見て更に複雑な感情が湧き起こる。
「あとは・・・」
ちらりと横目で作り終えた栗きんとんを見つめた政宗は夕霧の後ろに回って両手に自分の手を重ねる。
「茶巾絞りが出来るようになれば完璧だな。」
そう言うと夕霧の手を器用に操り夕霧の作った物とは比べ物にならない程形の整った栗きんとんを一つころんと皿に乗せた。
「やり方が分かれば簡単だ。」
満足そうに口元を上げ政宗は笑う。
「ありがとう。」
その顔に精一杯の笑顔を政宗に向けた。
「もう遅い。ゆっくり休め。」
「うん・・・」
政宗は額に唇を押し当て、その後触れる様な口付けをした。
「おやすみ」
振り返らないままひらひらと手を振り台所を出て行った政宗を布巾を持ったまま見送る。
はぁ・・・
政宗が台所から離れたことを確認してため息をつく。
美味いと言ってくれた事素直に嬉しかった。
でも・・・政宗にバレたら意味がない。
しかも教えられるなんて・・・