第13章 雨。・:+°信長。・:+°
信長は無駄の無い所作でお茶を点て、夕霧の前にスッと出した。
「いただきます。」
こくりと飲むと心が緩んでホッとする。美味しい・・・
「信長様の点てたお茶、おいしいです。」
「当たり前だろう。誰が点てた茶だと思っている。」
信長は微笑み、もう一つ点てたお茶を片手で呷る様にして飲んだ。
こういう時間、本当になかったなぁ。
昼間に会っても廊下で声を交わす程度。それ位信長は忙しかった。
夜は夜で待っていても遅くまで天主に戻って来れず待っていたはずが先に寝てしまう事もしばしばだった。
信長の顔をまじまじと見つめる。
「なんだ。」
それに気づいた信長が夕霧に聞く。
「信長様の顔を見るの好きなんです。」
あ、しまった・・・つい思った事を口に・・・
「夕霧。」
「うわぁっ!!」
目の前に信長の顔が近づいた。
コツンと額をくっつけ、鼻が今にも触れそうだ。
「・・・ち・・・近いです。」
「俺の顔を見るのが好きなのだろう。」
「好きですけど・・・近すぎです・・・」
顔が熱を帯びて見えなくても真っ赤になっていると分かる。
唇に温かい感触が触れた。
割り込んで入ってくる舌を受け入れれば、茶の苦味が更に増す。
その苦味すら甘美に感じる。
唇が離れ、信長様と目が合う。
「信長様・・・大好きです。」
自分の素直な気持ちを口にする。
その言葉に信長は口元を緩めた。
「当たり前の事を言うな。まぁ、貴様の気持ちよりも俺の気持ちの方が大きいがな。」
「そんなことありません。私の方が大きいです。」
「何を言う・・・貴様・・・」
言いかけた途端、お互いの顔を見て同時に吹き出す。
二人の笑い声が天主に響く。
「こういう時の信長様は子どもの様ですね。」
「言っている事は貴様も変わらんだろう。」
「あははっそうですね。」
その時、ふと夕霧の頭に疑問が湧き上がる。
「信長様?」
「何だ・・・?」