第1章 夏祭り。・:+°信長。・:+°
夕刻
仕事を終えて何も考えずに自室を出れば、つい向かってしまったのは城の門。
「まだ・・・戻れる訳ないよね・・・」
あの様子ではすぐに戻れないだろうと分かっている。
でも分かっているのに淡い期待を寄せてしまうのだ。
私、何やってるんだろう・・・
夕霧は、ふぅ・・・とため息をつくと自室に戻ろうと踵を返した。
その時・・・
「夕霧?」
門の方から自分の背中に掛けられた声に振り向くとそこには優しく微笑む秀吉の姿。
「秀吉さん・・・」
「どうしたんだ?こんな所で」
「ううん、何でもない」
苦し紛れに返した返事は自分でも呆れるほど下手だったが、稚拙な理由を言うよりマシだ。
でもこんな返事じゃ逆に心配されちゃうよね・・・
「祭りに行きたいんだが付き合ってくれるか?」
「えっ?」
絶対心配されると思って身構えたが、返ってきたのは予想外の言葉。
「一人で行くのも淋しいしな。夕霧が行ってくれればありがたい。」
「うん。」
夕霧は精一杯の笑顔で秀吉に答えた。
絶対心配してる。でも何も聞かずにいてくれる秀吉さんにこれ以上心配はかけたくない。
今はお祭りを楽しもう。
------------------------------
「喜んで下さるといいな・・・」
「ああ、きっと喜んで下さる。」
少し淋しそうな横顔に目を奪われながら秀吉は夕霧の髪を撫でた。
「おいしー!」
秀吉の買ってくれたみたらし団子を二人で頬張る。
「茶屋で食べるのとはまた違うな。」
「本当だね。お祭りで食べるともっと美味しく感じる。」
ふふっと微笑んでもう一口食べる夕霧に思わず口角が上がる。
団子を食べ終わる頃、ふと遠くに視線を向けた秀吉が突然夕霧の腕を掴み立ち上がり歩き出す。
「えっ・・・ちょっと、秀吉さん!?」
突然の秀吉の行動に頭が追い付かないまま訳もわからず付いていく。
「秀吉さんっ!どうしたの?」
「あれは光秀の側近だ。城に戻ってきてるかもしれない。」