第1章 夏祭り。・:+°信長。・:+°
包みを貰うと鼻先に当てすうっと香りを吸い込む。
甘い香りが鼻をくすぐれば思い出すのは大切な人の顔。
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時は遡る事、数刻前の昼間。
自室で頼まれた着物を縫う夕霧の手はいつも以上に軽やかに動いている。
「夕刻までには仕事を片付ける。」
忙しいはずなのに祭りに行く様に時間を割いてくれる約束をしてくれた昨晩を思い出す。
楽しみで今からドキドキしてる。
手は動かしつつ何を着て行こうか頭の中をぐるぐる巡らせていると襖の向こうから声がした。
「夕霧入るぞ」
襖が空いたと同時に掛けられたその声の方を向けば、仕事が立て込んでいて朝から光秀と天主に篭っているはずの彼と目が合う。
「信長様どうかされたんですか?光秀さんと一緒のはずじゃ・・・」
「ああ、火急の用が出来た。」
「え?」
話を理解しきれていない夕霧の前に膝をつき、信長は出掛けてくるとだけ告げた。
「・・・わかりました。気をつけて行ってきてくださいね。」
どうしようもない。ここで何を言っても困らせるだけだ。
気持ちを押し込めて無理矢理笑顔を作ってみせる。
「埋め合わせはまたする。」
「はい。」
信長は夕霧の前髪を指で分け、額に押し当てるように口付けて襖の向こうへ消えて行った。
襖が閉められ、淋しい空気が夕霧を襲う。
先程まで期待を膨らませていた分、喪失感も大きいがこればかりは仕方がない。
「一緒に行きたかったな・・・」
頭では理解しているのに本音がついつい口をついて出た。