第1章 夏祭り。・:+°信長。・:+°
うだる様な暑さの昼間を過ぎ、少し西の空が赤く染まり出した頃。
安土城にも太鼓や笛の音が響いて聴こえてくる。
その音に誘われる様に夕霧は安土城の石段を降り城下へ走り出す。それを秀吉が後ろから追う。
「こーら夕霧。走るなって言ってるだろ。」
「大丈夫!秀吉さんこそ付いてき・・・きゃっ!」
後ろにいる秀吉に声を掛けながら走ったせいで小石につまづいて体制を崩した。
転んじゃうっ!
受け身も取れないまま目を瞑って身を縮ませるが既の所で大きな腕が夕霧を抱きとめた。
ゆっくりと目を開け抱きとめてくれた秀吉の顔を恐る恐る見上げる。
「だーかーら言ったろ。」
「ごめんね・・・つい。」
「お前は本当に世話が焼けるな。」
秀吉が夕霧の頭にポンポンと触れる。
「今度はゆっくりな。祭りは逃げないんだからな。」
「うんっ!」
ニコッと満面の笑みを秀吉に向けるとその笑みに応える様に秀吉の口元も緩んだ。
櫓の立つ中央に近づくにつれ人が多くなってくる。
人混みをかき分けながら進んでいると夕霧がふと足を止めた。
「どうした?夕霧」
「秀吉さん、ちょっとだけ行ってくる!」
「夕霧!ちょっと待っ・・・」
秀吉の声も聞こえていないのかどんどんと進んで行ってしまう夕霧にため息を付きながら後を追った。
「うわぁっ綺麗・・・」
「いらっしゃい!」
「夕霧っ、一体どうし・・・」
やっと夕霧に追いついて後ろから覗き込むとそこには色とりどりの金平糖。
「これは見事だな。」
屋台の提灯の明かりを受けてるそれは、宝石の様に輝いて甘い匂いを放っている。
「どうだいお嬢さん!なかなかお目にかかれない代物だよ!南蛮の菓子で金平糖って言うんだ。」
夕霧を町娘だと思っている屋台の店主は嬉しそうに金平糖の説明をしている。
「お土産にしようかな・・・全色入れてください。」
「毎度っ!可愛いお嬢さんにはおまけしとくからね。」
「ふふっありがとうございます。」