第6章 轟焦凍✕アコースティッコフィリア【音響愛好】
何で思い出せないの。
「あ、れ……?」
無意識に髪をくしゃりと握る。
頭が
痛い
まるで自分の本能が思い出すことを拒否しているようだ。
「─────すず」
「!!」
轟くんに名前を呼ばれてハッと我にかえる。
髪を握っていた手を抑えられ、彼の真剣な顔に近くで見つめられていた。
「悪かった、無理に思い出そうとしなくて良いから」
「っ、あ、ご、ごめん…っ」
急に置かれている状況を理解して顔が熱くなっていく。
私が正気に戻った事を理解すると、轟くんも手を離してくれた。
全く‥自分でもらしくない事をしたと思う。
恥ずかしくなって、忘れようと頭を左右に振った。
「‥‥‥‥‥‥」
「轟くん?」
ふと、彼を見遣ると何かを思い出したかのように目を見開いて放心状態になっているような様子が目に入る。
「!、いや、何でもねぇ。」
「…………?」
まぁ、取り敢えず思い出せない誰かの事は良いか‥‥。
分からないものは仕方が無い。
私はそう自分の心を納得させた。