第6章 轟焦凍✕アコースティッコフィリア【音響愛好】
「‥…私のこの歌ね、昔、誰かに教えてもらった歌なの」
乱れた服を整えながら、ゆっくりと歌について話し出す。
普段から誰にも言っていない筈なのに、何故轟くんにはなしているのか自分でも不思議に思う。
しかし、彼には話しても構わないと、話したいと、そう思ったのだ。
「…“誰か”?お前はそいつの事知らないのか?」
「‥知らないっていうか、思い出せないっていうか‥‥確かに私が小さい頃誰かに教えてもらって、会うたびに一緒に歌っていたような気がするんだけど‥‥。それが誰だったのかは思い出せなくて‥」
‥‥あれ?
何で、思い出せないんだろうか。
いざ考えると不思議な話だ。
「会うたびに…いつも歌って……」
思い出そうとしても思い出せない。
いつも一緒に歌っていた筈なのに。
『すずちゃん』
『これね、僕のおかあさんが歌ってくれたうたなんだ』
何処か遠くでそんな声が聞こえた気がした。