第6章 轟焦凍✕アコースティッコフィリア【音響愛好】
【すずside】
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昔から、歌う事が好きだった。
どんな歌が好きとか、そういう縛りは無いけれど。
けれど、小さい時に誰かが教えてくれた歌。
誰かと共に歌った歌。
───とても大切な筈だったのに、その人の事を思い出せないでいた。
だから、私は歌った。
歌い続けると思い出せそうな気がしたから。
歌い続けると、いつか、その人と会えそうな気がしたから。
最初は少し戸惑ったけど、今ではオレンジ色の夕焼けが空に沈んで暗くなるまで雄英高校の中庭で歌うことが日課になっていた。
夕焼けが暗闇に染まるほんの一瞬がとても美しく、幻想的に見えるこの場所は私のお気に入りだ。
ただの自己満足だと思っていた。
こんな事をしても、無意味だと。
誰もが居なくなったこんな場所で歌っても、何かがある訳ではないと思っていた。
この時の私はまさか誰かが毎日のように自分の歌声を聞いているとは思っても見なかった。
時間帯的にも、周辺には誰も居ないと思っていたのだ。
しかしそんな甘い予想はすぐに打ち砕かれる事になる。