第4章 葉は緑、空は雨色
突然車両内の空調が動き出した。
混みすぎて暑かったからちょうどよかったな、なんて思っていると、
ガタンッ、と再び揺れて、防具と竹刀を抱えた夢主(妹)は、大きく体勢を崩してぐらりと動く。
「おととととと・・・」
そんな呑気な声をあげて、背を反らせてバランスを取ろうとする夢主(妹)の腕を掴んで引き寄せた。
「掴まってろ」
夢主(妹)からつり革は遠くて届かない。俺は自分の腕に夢主(妹)を掴まらせる。
「あの…ありがとうございますっ」
予想していた通りの呑気で明るい声だが…
腕に掴まる夢主(妹)を見ると、なんだ?照れてんのか?
見下ろす俺からそらすように伏せた目から伸びる、長めのまつげに何故か目を奪われて、夢主(妹)がゆっくり瞬きをするのをぼーっと見いった。
なんだよ…胸のあたりがむずむずする。
ガタンッ
車両が揺れて、掴まらせた俺の腕に少し力が込められる。
さっきまではなんとも思わなかったのに…全身の神経がそこに集中したみてえにジンジンして来た。
もうひとつガタンと揺れて、更にぎゅう、と掴まられれば、
「うわぁっ平助先輩すみませんっ!」
と、焦って手を離す夢主(妹)。案の定再び体制を崩す。
「ばっか…掴まってろって」
腕を引くのが間に合わなくて、咄嗟に夢主(妹)の背に腕がまわった。
咄嗟に込めた力が強くて、これじゃあまるで抱き寄せたみたいだ…
「うわっごめん」
そう言って背から腕を離す。
一瞬だったけど…
夢主(妹)ってこんな柔らけえんだな。
普段、部活でしか会わねえし…部活中は、男みてえだとか思っちまってた。
「掴まってろって」
差し出した腕がジンジンして、走った後みてえに鼓動が早くなる。
やべー…
女なんて意識したこと無かった。
まあ、毎週買ってる漫画雑誌に載ってる、水着の女の子は、まあ…うん…ガン見してるけど…
そういう女の子って、もっと遠い存在かと思ってた。
夢主(妹)の瞬きを覗き見する。
かわいい…
とか思っちまう。