第4章 葉は緑、空は雨色
「でも、落っことしちゃったから…」
なんだかもじもじしてしまう私。
「そんなのいいよ。それ、全部僕の?」
はい、と自分の手の中にあるカップケーキ達を見る。
私としたことが…何か袋に入れてくればよかったのに。しかも作ったやつ全部…とか……どんだけ焦ってたんだ私…。
ああ恥ずかしい…
「袋とかなくてすみません…あの…私…」
もじもじの再来だ。沖田先輩は、自分で拾ったカップケーキのラップを剥いて、食べはじめている。
「うん。おいしい。」
もぐもぐと食べながら、感想を言ってくれる。
…沖田先輩はいったい何を考えてるんだろ。
今朝お姉ちゃんと登校中に沖田先輩に会って、
「夢主(妹)ちゃんと朝から会えるなんてうれしいな。」
とかなんとか…言われた。
沖田先輩はいつも私にそんなことばかり言う。
でも、クラスメイトや先輩達に言われたんだ…沖田先輩が私に優しいのはお姉ちゃんの妹だからだって…
これ以上、勘違いしたくない。っていうか、わかってるはずなのに毎回毎回舞い上がってしまうのだ。
なんだかイライラして、思ってもいないのに、「いつもいつもいつもそうやってからかうのやめてください!」って…怒鳴る勢いで言ってしまった。
「からかってなんかいないのに…」
と言う先輩の言葉は無視して、
「私がどんな気持ちになってるかなんて知りもしないくせに!」
と、思いっきり悪態をついて走ってその場から逃げてしまった。
下駄箱に着いて、一息ついたら、どうしよう…という感情でいっぱいになった。
沖田先輩がお世辞を言わない人なことは知ってるのに…
舞い上がるくらい沖田先輩は私に優しくて、それってとってもうれしいことなのに…
謝らなきゃ…そう思ったらお昼休みまで気が気じゃなかった。
沖田先輩はカップケーキをひとつ食べ終わって、
「ごちそうさま。」
いつもの沖田先輩の声で言われた。
「全部くれるんでしょ?」
そう言って、私に抱えられてるカップケーキを取っていく。