第4章 葉は緑、空は雨色
う~ん…どうしよう…
調理実習で作ったカップケーキを両手で抱えたまま、屋上のドアを開けられずにいる。
教室へ行こうとしたら、途中で会ったお姉ちゃんに、ここにいるよ、と教えてもらった。
やっぱり千鶴について来てもらった方がよかったかな…いやいやだめだめだめ!私は謝りに来たんだからっ
今朝…勢いとはいえ、沖田先輩にひどいことを言ってしまった。
早くしないとお昼休みが終わってしまう。
よしっ!開けるぞ…
気合いを入れて、ドアのぶに手をかけた。
――カタン
私が力を入れる前にドアが向こう側から開かれる。
目の前に沖田先輩がいた。
「あ…」
間抜けな声が漏れる。
沖田先輩は少し驚いた顔をして、
「…夢主(妹)ちゃん?どうしたの?」
いつもみたいにニコニコはしてなくて、真顔の沖田先輩は、片目に少し前髪がかかっていていつもと雰囲気がちがった。私は思わずドキリとしてしまう。
「え、えっと…」
思いっきり挙動不審になった私の腕からパサパサッと、ラップに包んだカップケーキ達が落ちる。
それを拾おうと、あわててしゃがみこんだ。
沖田先輩もしゃがんで、そのうちのひとつを拾ってくれた。
ああなんでこうなるんだろう。謝りにきたのに。お詫びの品なわけじゃないけど、上手に焼けたから先輩にあげたかったのに…。ラップにくるまれてるとはいえ、落としたものをあげるのは気が引ける。
はぁ…泣きたくなってきた。
「…夢主(姉)ちゃんならもう教室だよ。」
お姉ちゃんじゃない…という言葉がとっさに出て来なくて、首を左右にぶんぶんと振った。
「…調理実習で上手に出来たから……先輩にあげたくて…」
「僕に?」
はい、と私は頷いた。思ったよりも、調理実習で作ったものをあげる…という行為は気恥ずかしいもので…沖田先輩の顔がみれなくなった私は、下をむいたままだ。
「ありがとう。」
とても優しくて静かな声色に、はっと顔を上げると、沖田先輩はすごくすごく嬉しそうな顔をして、拾いあげたカップケーキを見てる。