第4章 葉は緑、空は雨色
「…何があった?」
いつものように原田先生は優しくそう言って、持っていた書類をぱさりと置いて私がいる入口に歩いて来る。
「だめ!先生ちょっと私にちかづかないで!」
「なんだよ?それ。」
一瞬歩くのを止めて、原田先生は笑う。
今ならもれなく私は先生に甘える。
そして考えることを放棄する。
そのつもりでここに来てしまったけど、やっぱり今日はダメだ。
「ちょっと…今、先生に甘えたらだめな気がするから、先生はそこにいて?」
「意味わかんねぇよ?」
「私もわかんない!」
先生は笑いながら私の目の前の椅子をくるりと反対に向けると、腕を背もたれに乗せ、座面にまたがるように座った。
「一君を振ってきた。」
「は?」
「振られる…って思ったら、とっさに振っちゃった。」
原田先生は、私がこれ以上は近づくなと手を前に出して阻止をしているぎりぎりの距離まで、椅子ごと移動して来る。
「どうしよう…もう、一君と手つないだり、抱きしめてもらったり…においも声も全部全部遠くなっちゃったんだ…」
今更…一君がもう私に優しく微笑むことはないんだ…って悲しくなってきた。
涙がぽろぽろ。
一君とは上手に会話できない。
気がつけばきっとはじめから。
最後の最後まで…なんだかかっこつけてしまった。
ちゃんと話せばよかったのに。
好きだよって。
でも私達合わないねって…でも大好きなんだよって。
でも、伝えてしまうのが怖かった。それを振り払われるのが怖かったから。
「別れよう」なんて言葉を、一君の声で聞きたくなかった。
そんなの、きっとずっとずっと耳の奥に残ってしまうから。
だったら、私がその呪いの言葉を一君の耳に残してやるんだ。
「…好きな人が幸せになってくれればいい………なんて考えられない。」
原田先生は何も言わずに私の言葉を聞いてる。
「意地悪して悩ませて苦しめたいって思っちゃった。」
きっと今の私の顔は、ひどく醜い意地の悪い顔だ。
「あ~あ…性格わる…」
だんだん自分に呆れて来た。