第2章 サクラ散る頃
先生の家の前についた。二階建てのアパートの、二階だった。
何にも考えずにここまでついてきてしまったけど、これは少しまずいんじゃ…いや、大分まずい気がする。
今更固まる私に、頭にポンと手をのせて、
「ばーか。何もしねぇよ。だいたい警戒するのが遅すぎるぜ?」
と、笑った。
お邪魔します、と、家に入ると、タバコと原田先生のにおいでいっぱいだった。
やっぱりこのにおいは落ち着く。
「散らかってるが…まあ適当に座れ。あ~飲みもんは酒か水しかねぇな…」
冷蔵庫を開けながら、さすがに酒飲ませるわけにいかねぇしな…と首をひねりながらぶつぶつ言ってる。
トン、とミネラルウォーターのペットボトルを私の前に置いて、まぁ飲め、と言って、原田先生は目の前にどかっと座った。
蓋を開けて一口ゴクリと飲む。
その様子を原田先生は見届けると、
「で…どうした?」
と、静かに聞いてきた。
どうした…んだっけ…私。そうだ…いろいろなんだかわからないんだった…
何から話していいかわからなくて黙ったままの私に、
「ゆっくりでいいから、思いついたことから話せ。」
そう言ってくれる。
今日あったことをひとつひとつ話すことにした。
昼休みに一君が屋上に来なかったこと、土方先生に呼び出されたこと、その時に伊東先生に言われたこと、体育館でのこと…夢主(妹)が一緒に泣いてくれたこと、ぽつりぼつりと話していく。
原田先生は何も言わずに、私の話を聞いてくれていた。
今日の出来事を全部話終わって、私は何が言いたいのかわからなくなってまた黙ってしまった。
「…爪、休暇終わったんだな。」
私の指先をじっと見つめて、原田先生は言う。
「しかし…器用なもんだな。そんなちっこいのに。」
原田先生は私の手をとってじーっと爪を見てる。
「…こうやって、爪いじると落ち着くから……明日学校ないし。」
先生は私の指先から私に目線を移して、
「…この方がお前らしくて、俺はいいと思うぜ?」
と、優しい笑顔で言ってくれるものだから、また涙がじわじわ溢れてきた。
「そんなこと言ってくれるの、先生だけだよ…」
どんどん涙が出てくる。
原田先生は持っていた私の手を離して、ぽんぽん、と頭を撫でてくれた。