第11章 夏の終わりと蝉の声
「沖田先輩…私は…」
今にも泣き出しそうな夢主(妹)ちゃんが、小さな声を紡ぎ出す。
だめだよ?この先は言わないで…
そう思ったけれど、もう止める術なんて何もないから…
「夢主(妹)ちゃんが好きだよ」
僕の言葉で食い止める。
夢主(妹)ちゃんの瞳を覗き込んで、僕は生まれて初めての告白をした。
「あーあ…言っちゃった」
涙と鼻水と泥が付いた夢主(妹)ちゃんの顔が、みるみるうちにもっとぐちゃぐちゃになってく。
「あはははは。夢主(妹)ちゃんの顔ぐちゃぐちゃだ。」
あわてて顔を隠そうとする夢主(妹)ちゃん両手を捕らえて、僕の腰にまわす。
ぎゅっと抱きしめれば、あったかくて…ふんわりお日さまの匂いがして…うじうじと悩んでた事が心底ばからしくなった。
「その顔、すごく可愛いよ。鼻水もついてるけど。」
「!」
再び慌てだしたけど、力いっぱい抱きしめてるから、身動きがとれない。
「いいよ。そのままで。」
日が落ちる直前の、明るくも暗くもない空間で…どこからともなく夕飯みたいな匂いが鼻をくすぐる。
「小学生の頃のさ、友達と別れて早く帰らなきゃって走ってる時の匂いがする…」
夢主(妹)ちゃんを抱きしめたまま、あたり一面の空気を吸い込めば、あの頃の切ないようなあったかいような…そんな気持ちを思い出した。
「あ!わかります!楽しかったー!暗くなっちゃう!早く帰らなきゃ!夕飯なんだろう?みたいなかんじ!ほんとだぁ。その時の匂いがするー!」
僕の腕の中で、同じ空気を吸い込んで、同じように感じてくれてる夢主(妹)ちゃん。
「大好きだよ」
僕がこんなに素直になれるなんて知らなかった。
こうやって、同じ場所で同じ空気を吸い込んで、同じように感じて、一緒に楽しんだり悲しんだり…
夢主(妹)ちゃんとなら、できる気がする。
ぎゅうっと腕に力をこめて、それから少し力を緩めた。