第11章 夏の終わりと蝉の声
「そんな女の子のことを男の子はすごく好きになったし、女の子も多分その男の子が好きなんだけど…」
ぽしゃん、とひとつ小石を軽く投げてみれば、澄みはじめた水溜りは濁りはじめる。
「男の子は怖くなりました」
「怖く?」
じっと静かに聞いてくれていた夢主(妹)ちゃんの視線は、呟いた言葉と一緒に僕に向いた。
「うん。怖く。」
視線は水溜りのまま、僕は続ける。
「ほら、その男の子が好きだったけど、つきあってみたら見当違いだった…とかになったらさ。元に戻れないじゃない?」
「っ!そんなことっ」
「ないかな?わからないよ?」
抗議する為に、力いっぱい立ち上がった夢主(妹)ちゃんを見上げれば、困ったような怒ったような複雑な顔をしてる。
相変わらず泥もついてるその顔は、たまらなく可愛かった。
「僕はね、夢主(妹)ちゃんが思ってるよりずっと意地悪だし…、すごーく独占欲とか強いんだ。」
しゃがんでるのに疲れて、僕もゆっくり立ち上がる。
「この気持ちを認めちゃって、前に進もうなんて思ったらさ…そうだな…例えば…平助とアイスなんて食べてるとこ見ちゃったらさ」
立ち上がった僕たちの影は、後ろに細長く伸びてる。
「うーん…どうしたものかな…もうアイスなんて食べちゃだめ!とかにしようかな?」
にやりと悪戯に笑ってみても、夢主(妹)ちゃんの表情は変わらない。
「…そんなことを僕は言い出すかもしれない」
「平助先輩とアイス食べました…さっき…」
「あははは。ストーカーしたわけじゃないよ?たまたま見ちゃった」
罪悪感を感じてそうな微妙な表情の夢主(妹)ちゃんだけど、こんな顔をさせたいわけじゃないんだ。
「今はいいよ。どこで誰と何をしててもさ…でも…ここでさっき夢主(妹)ちゃんが叫んでた言葉に返事をしちゃったらさ…」
沈みかけた太陽が痛いくらいに照らしてきて、僕も夢主(妹)ちゃんもオレンジ色になってる。
「夢主(妹)ちゃんはきっと窮屈になって、いつか僕を嫌いになるかもしれない。」
キラキラに照らされてる水溜りに映った僕は、情けないほどかっこわるかった。