第11章 夏の終わりと蝉の声
それからしばらく、僕も夢主(妹)ちゃんも黙ったままだった。
この沈黙は、夢主(妹)ちゃんにとっては気まずかったかもしれないけど、僕にはなんだか心地いい。
「あのさ…あるところに…」
僕はゆっくり言葉を吐き出す。
「あるところに、何をしても一生懸命に見えないけど、何をしていてもそれなりに上手く出来ちゃう男の子がいました」
唐突に話し出した僕にびっくりしてる夢主(妹)ちゃんは、一瞬僕の顔を見てから、また水溜りに視線を戻した。
そのまま僕は続ける。
「そんなイケメンな男の子は、女の子からモテモテになりました」
「ぷはっ」
思わず吹き出した夢主(妹)ちゃんの反応に満足しながら、僕は続ける。
「でも男の子は、ちっとも優しくはありませんでした……」
好きだって言われても、つきあってみても、男の子は好きになれません。
いつしか、冷たい、酷い、自己中…
そんな言葉ばかり言われるようになりました。
それでも男の子は、そんなものか…と思っていました。
僕のどこか好きかを聞いたって、みんなまともに答えてくれません。
かっこいいと思うから、とか…
優しそうだったから、とか…
「何それ?君の目に僕はちゃんと映ってるの?って言ったら泣いちゃったり…さ」
ゆっくりゆっくり話をしているうちに、濁ってた水溜りは落ちつきを取り戻して、泥が底に沈みはじめた。
静かに耳を傾けてくれてる夢主(妹)ちゃんの、泣き出しそうな顔が水面に映ってちょっとだけ見える。
僕の顔はどんな風に映ってるんだろう。
そんなことを考えつつ、少し息を吸い直してから続けた。
「そんな男の子にさ、好きな女の子ができました」
ほんのちょっとだけ、隣に感じる空気が緊張をした気がしたけど、気がつかないふりをする。
「好きになった女の子はね……」
いつもなんだか楽しそうだったり、すごく笑顔がかわいくて…
でも時々土方先生みたいに眉間に皺を寄せて考えすぎちゃってたりしてさ。
そんな顔も可愛くて…
その子を見るだけで元気になれたりしてさ。
いつも一生懸命なんだけど、全然大変そうにしてなくて…
本当はもっと頑張ってるのに、そんな姿は誰にも見せなくてさ…