第11章 夏の終わりと蝉の声
「ちょ…ちょっと総司!早く追いかけて!!」
思いっきり勘違いしたらしい夢主(妹)ちゃんは、話をろくに聞かずに出て行っちゃって…それに慌ててる夢主(姉)ちゃん。
ああもう…面倒くさいな…
なんて前の僕なら思ったんだろうけど、夢主(姉)ちゃんの言葉を最後まで聞き終わる前に、体が勝手に玄関を飛び出してた。
このまま夢主(妹)ちゃんを追いかけて、僕はどうするつもりなんだろう?
勘違いだよ、思ってることは何もないよって弁明するの?
僕達はまだただの先輩と後輩なのに?
弁明しなきゃいけない間柄じゃないんだけどな…
それでも…
夢主(妹)ちゃんはこっちに走って行った気がする…なんて、「勘」が働いて必死に走ってる。
僕は…どうするの?
割と必死に走ったけれど、まだまだ息をきらすまでもない距離で、夢主(妹)ちゃんの姿は見つけられた。
「沖田先輩のばかー!!!」
「でも好きだー!!!」
「でもばかー!!なんで好きって言わせてくれないの?なんでお姉ちゃんなの?ばかやろーー!!ちゃんと振れー!!」
夢主(妹)ちゃんはさっきのゲリラ豪雨で出来たばっかりの水溜りにしゃがみこんで、子供みたいにバシャバシャと両手で掻き回していて、そのせいで水溜りは濁ってる。
そんな水溜りの真ん中で、僕への悪態と愛を叫んでる夢主(妹)ちゃんに思わず吹き出しそうになったけど、堪えて足元に転がってた小さな石を拾った。
それを夢主(妹)ちゃんに当たらないように、ぽんっと軽く投げれば…ポシャン、と小さな音を立てて水溜りに落っこちる。
夢主(妹)ちゃんが振り返った。
「カエルにでもなるの?」
そう声をかければ、声にならない声で驚いてる。
そんな夢主(妹)ちゃんの顔は、涙とか鼻水とか泥とかでぐちゃぐちゃだったけど、世界で一番可愛い顔だと思った。
急いで鼻水とか涙とかを拭いてる夢主(妹)ちゃんの横に、僕もしゃがみこむ。
さっきまでバシャバシャと掻き回していた水溜りは、まだ泥で濁っていて…あめんぼが1匹、すいすいって泳いでた。