第11章 夏の終わりと蝉の声
「総司?」
聞き慣れた声に、前を見る。
「大丈夫じゃなさそうに見えるけど大丈夫?」
ああ…夢主(姉)ちゃんか…
「どこ行く予定だったの?びしょ濡れだけど…」
気がつけば雨の勢いは大分弱まってる。
夢主(姉)ちゃんは無言のままの僕を、自分の傘に入れてくれた。
僕よりちっちゃい夢主(姉)ちゃんが持つ傘の芯は、カツンカツンと僕の頭に当たってる。
「ってどうしよう?びっくりするくらい濡れてるけど、家に帰らないの?」
ああそうだった…引き返してきちゃったから、家とは反対側なんだった。
言葉を発するのがめんどくさい。
なんでまた夢主(姉)ちゃんに会ったんだろう。
これがその辺の僕の顔だけで寄ってくる女の子だったら楽だったのに。
カツンカツンと頭に当たってる傘にも苛々して、別に夢主(姉)ちゃんは悪くないけど、何を言われても無視し続けた。
歩いてるうちに雨が止んで、さっきのバス停の前を通り過ぎる。
もう夢主(妹)ちゃんの姿は無かった。
傘を閉じた夢主(姉)ちゃんは、相変わらず無言の僕に、
「雨止んだねー。」
なんて、いつもと変わらない様子。
それでも口を開くのもめんどくさくて、黙ってた。
僕の家より先に着く夢主(姉)ちゃんの前。
いつも夢主(妹)ちゃんを送り届ける場所。
今は見たく無かったのに。
ブーブーブー…
「はいはーい。夢主(妹)雨大丈夫だった?コンビニ?すれ違わなかったねー。うん。あ、そうなの?わかったー!千鶴ちゃんによろしくねー!あ、今ね〜…」
夢主(姉)ちゃんのスマホが鳴って、じゃあね、と別れる前に夢主(姉)ちゃんは電話に出た。
どうやら夢主(妹)ちゃんみたいだけど…まだ帰ってないの?
「今ね〜そう…」
僕がいる事を黙っていて欲しくて、慌てて夢主(姉)ちゃんの腕を掴んだ。
なんとか察してくれたみたい。
「…じでもしようかな?って…うん、うん、はーい。じゃあね〜」
電話が終わって、掴んだままだった腕を放す。
「今ちょっと私天才だった!総司と掃除!うま〜い!…で…総司はなんだか変だからとりあえずうちに来なよ。夢主(妹)は千鶴ちゃんの家に行くんだって。」
無言のままの僕の腕を掴むと、夢主(姉)ちゃんはずんずんと進んで玄関を開けた。