第11章 夏の終わりと蝉の声
うぬぼれていただけだけど、沖田先輩は、「え?くれるの?うれしいなぁ」とかそういう感じで返事をしてくれると、勝手に想像してた。
でも、実際の沖田先輩のテンションは全然違う。
「す、すみません!決勝・・・くやしかったはずなのに、浮かれてました!!」
私は慌ててそう返した。
なんだろう。
どうしてこんなに泣きそうになるんだろう。
沖田先輩は優勝を逃しちゃったのに、賞品だなんて言ったから、少し怒っちゃったかな?
いつも優しいからって、うぬぼれてた。
鼻がむずむずしてきて、少しでも言葉を発したら泣いてしまいそうだから、下を向いて必死に耐える。
「やっぱり賞品もらおうかな?」
完全に気を使わせてしまったんだと思う。
どうして私はこうなんだろう?
あはは、夢主(妹)ちゃん落ち込まないでよ、なんて笑う沖田先輩は、いつもと同じ声色だった。
「アイス特盛りとかでもいいですよ!!」
泣いてる場合じゃない!と明るくそう言えば、
「これでいいや」
と、前髪を掻き分けてちゅ、と短くキスをされた。
ああまた・・・
こうやって沖田先輩は・・・
いつもなら恥ずかしくて嬉しくて赤くなると思うけど・・・
今日は何故だか涙がぼろぼろ落ちてきた。
「あはは。僕が引退するのそんなに寂しい?嬉しいなぁ。」
なんて、見当違いなことを言う沖田先輩だけど・・・
きっと本当はわかってるはず。
もう・・・
言っちゃおう。
「沖田先輩・・・」
「なあに?」
「私っ・・・」
唇を食いしばって、沖田先輩の目の前に立ちはだかる。
「私は、沖田先輩が・・・」
「あ!」
好きです、と言う前に、沖田先輩の大きな声にさえぎられてしまった。
「夢主(妹)ちゃん、やっぱりアイス食べようか?」
沖田先輩はそう言うと、くるりと歩く向きを変えて、駅前のアイス屋さんに向かって歩きだす。
言いかけた言葉をひっこめて、その後ろをついていく。
沖田先輩はどう思ってるんだろう?
好きですって言いたかったのにな。