第10章 【番外編】対煩悩戦の始まり
スポーツドリンクの粉末を取りにキッチンへ行くと、短く切ったジャージにキャミソール…その上からエプロンをした夢主(姉)の姿。
どうやら千鶴の姿はない。
他の生徒は皆稽古場にいる。
俺は衝動に駆られて、後ろから抱きしめた。
「びっくりした~」
首に顔を埋めて跡が残らないように唇を落とせば、ビクっと体を強張らせる。
「ちょ…」
いつも飄々としているくせに、たまに恥じらって赤くなる。
そんな反応に、俺はつい暴走しそうになるんだが…
耳を軽く噛めば、さらに可愛い反応が返って来た。
「ちょ…っとせんせ?」
「ん…」
「さのすけっ」
「…そんなかっこしてるお前が悪い」
髪の毛に、額に、首筋に、耳に、肩に…俺の唇は軽く触れていく。
その間も、微妙な抵抗を見せながら、ピーラーでジャガ芋の皮をむいている。
たまんねぇな。
そう思った時だった。
くるりと体ごとこっちを向いて、俺の腕にぐっと力を入れて勢いよく背伸びをした夢主(姉)は…俺の唇を食う勢いで唇を押し付けてきた。
そしてすぐにまたくるりと向きをかえて、何事もなかったようにジャガ芋の皮むきをはじめてる。
一瞬の出来事に固まってしまった俺を、ちらりと見上げてニヤリと笑う。
「やべえな…」
そう言って俺は後ろから抱きしめている腕に、さらに力をこめた。
「そろそろ千鶴ちゃん戻ってくるよ?」
そう言われれば、背中に視線を感じていることに気がつく。
もう戻ってんのか。
最後にもう一度、こめかみあたりにキスを落として、今度俺の家に飯を作りにこいと言ってみる。
こいつが卒業するまで…
俺は耐えられるのか?
悶々とする日々のはじまりはじまり…
対戦はまだ序章。
男らしく受けて立つぜ?
本音を言えば…
早く斎藤の形跡を消したくて仕方ねぇっていう、なんとも小せぇ俺がいる。
あいつはどんな風にお前に触れた?
そんなガキみてぇなことが脳裏をよぎって、思わず笑いがこみ上げてくる。