第9章 西の鬼と東の大将
「夢主(妹)ちゃん」
手持ち無沙汰になって、千鶴に試合の事などをLINEで報告していたら、いつの間にか戻ってきていた沖田先輩が目の前に居て、はっ、と顔を上げる。
「ごめんね?ひとりぼっちでさびしかった?」
いろいろな人に話しかけられてる時の沖田先輩は、いつもの顔ではなくて、たぶん余所行きの顔なんだろうけど・・・なんだかすごく大人っぽかった。
それを眺めていたらすごくすごく・・・なんだか遠い存在に思えてしまって、胸がきゅうって苦しい。
「おつかれさまです!そして、おめでとうございます!」
目の前にいる沖田先輩に、精一杯の笑顔を向ければ、
「ま、平助がほとんど頑張っちゃったから、僕はなんだか不完全燃焼だけど。」
と、自嘲気味に笑ってる。
そんな沖田先輩は、いつもの私の知ってる顔で、なんだかものすごく安心した。
「夢主(妹)ちゃん?どうかした?」
ほっと胸をなでおろしていた私の顔を覗きこんできた沖田先輩の顔がすごく近くて、思わず「わぁっ」と驚けば、
「あははは、真っ赤だよ?」
なんていつもどおりの笑い声。
あとどれくらいこんな風に過ごせるんだろう?
さっき遠くに感じた沖田先輩が、このまま本当に遠い存在になってしまうような気がして、いつもどおりの笑い声に、泣きそうになってしまった。
会場の外の待機スペースで、先輩達は着替えをする。
まだその場にお姉ちゃんも先生もいなくて、なんだか気まずい。
「あっちに行ってますね~」
そう言って、先輩達がいる待機スペースの横の壁を曲がった所にある、「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた扉の前に座り込んで、千鶴へのLINEを再開した。