第9章 西の鬼と東の大将
唐突にそう言った原田先生に、皆の前なのに大丈夫?なんて驚いていると、
「うん。それがいいね。苗字さんは原田君といるといい。」
なんて、真面目に井上先生が賛同した。
もともと剣道部の顧問ではないから、いわゆる"ベンチ入り"はしないらしい。
「ってことで、夢主(姉)よろしくな?」
「はーい。」
皆の手前、よそよそしくするのが逆になんだか恥ずかしかったけど、原田先生と一緒に居てもおかしくない口実が出来た事が嬉しかった。
ちらちらとにやけながら私と原田先生を交互に見ている夢主(妹)に、
「あっはは。夢主(妹)ちゃん、夢主(姉)ちゃん達なんだかずるいよね〜?」
総司が笑ってこそこそと言う。
「えっ?沖田先輩知って…」
思わず驚いて大声になる夢主(妹)に、
「しー。」
と、総司が自分の人差し指を夢主(妹)の口元に持っていった。
総司って…やっぱり夢主(妹)が好きだよね?
真っ赤になってる夢主(妹)をからかう総司は、なんだかとっても優しい目をしてる。
総司もあんな顔するのね、と、なんだか上から目線になってみたり。
「そういうわけで…新八、俺らは昼飯調達してから行くわ。」
「おう。夢主(姉)悪いな。左之を手伝ってやってくれ。」
会場へ向かう部員さん達と一緒に歩き出した私を、お前はこっちだ、と、ばかりに軽く腕を掴む原田先生に、心臓がちょこっと飛び跳ねた。
部員の皆と別れて、二人だけになると、さっきまで大丈夫だったのに、どきどきして来て落ち着かない。
「行くぞ?」
全然どきどきなんてしてなさそうなのが悔しいけれど、やっぱり二人だけになれたのが嬉しくて仕方なかった。
ふと、ぽん、と頭に原田先生の掌が乗って、
「そんな顔すんな。このままばっくれたくなっちまう。」
そんな事を言いながらさらりと前髪を撫でられる。
神経が原田先生が触れている頭に集中してしまう。
今すぐ抱きつきたいのを抑えて、
「私どんな顔してるの?」
と聞けば、にやりと笑って、
「秘密」
と、言われた。
にやけてたかな?だってしょうがないじゃない。嬉しいんだから…。