第9章 西の鬼と東の大将
原田先生に触りたい。
少しだけ距離をあけて隣を歩く原田先生の横顔をちらりと見上げれば、
「ん?どうした?」
なんて、返ってくる。
どうした?じゃないよもう。
私はこんなにどきどきしてるのに。
手を繋ぎたい…
触りたい…
…キスをしたい。
私…変態なんじゃないかな?って思えてくるくらい、微妙に離れて歩く原田先生を見上げて、うずうずどきどきが止まらなかった。
突然、ぐいっと腕を掴まれる。
「ぶつかるぜ?」
くくくと笑う原田先生は、目の前の柱にぶつかりそうになっていた私を、引っ張てくれていた。
掴まれた腕にも神経が集中してしまう。
ぱっ、と腕を放されれば、名残惜しくて泣きそうになった。
「どうした?」
泣きそうになってる私の顔を覗き込んで来る。
「なんでもない。」
私だけ変態みたいに、触りたいとか思ってる事が恥ずかしくて悔しい。
そんな私をなんだか楽しそうに笑って、
「なんだよ?」
なんて余裕な原田先生を困らせたくて、
「原田せ…じゃくて…さのすけに触りたくて我慢出来なくなりそうなんだけど。」
と、言ってみた。
どうだ。困るでしょ?私は制服だし、手なんか繋げないもん。
笑ってよ。
余裕な顔して、笑っていいよ。
「お前な…」
言葉に詰まった原田先生に少しだけ満足した私は、手を繋ぎたくて触りたくて泣きそうだった気持ちが、少し晴れた。
お弁当屋さんはどこなんだろ?
大通りを曲がって細い道に来ると、少し遠くにお弁当屋さんの看板が見えた。
さっきから無言な原田先生と、道が狭いから少しだけ距離を詰めて歩く。
「わっ」
突然力強く腕を掴まれて、驚いて声を上げれば、
「こっちの台詞だ」
と呟いて、触れるだけのキスをくれた。
そして、何事も無かったように歩き出す。
もう…
ずるいよ先生。
お弁当屋さんに向かう原田先生の背中をぼーっと見ながら、唇をそっと触ってみる。
「さのすけ」
後ろ姿に名前をよべば、ん?と振り返った。
「やっぱり我慢出来ない。」
一応前と後ろと右と左に人がいないか確認してから、少し前を歩く原田先生までダッシュをする。
そして、先生のTシャツをぐっと掴んで思いっきり背伸びをして…
私もキスをした。
唇には届かなかったから、顎にだけど…。