第9章 西の鬼と東の大将
「ありがとね。明日?うーん…ま、適当にしてるよー。おやすみー。」
ホテルの前まで送ってくれた原田先生におやすみって電話をした。
通話終了ボタンを押し終えると、なんだかまだ物足りない。
もう少し一緒にいたかったな…って思うけど、思わぬ旅行のおかげで、これから二日間は会える事が嬉しい。
明日は朝早くから大会に行くみたいで、正直…夢主(妹)の勢いに負けてここまで一緒に来たけど、私が居たらおかしいような?…と、なんだか気がひける。
千鶴ちゃんも来れたらよかったなぁ。
合宿から帰る途中、聞いて欲しい事があるの…なんて、思いつめた顔をしていた千鶴ちゃん。
合宿帰りのおっきなバッグを持ったまま、ハンバーガー屋さんで寄り道をして、話を聞いた。
「あのね…。斎藤先輩とお付き合いすることになりました。」
息をすぅ、と吸い込んで、緊張しながらそう言った千鶴ちゃんは、すごく嬉しそうで…私もなんだか嬉しかった。
ほんの数ヶ月前、私にとっては絶望でしかなかった一君と千鶴ちゃんの恋の行方を、こんな気持ちで知ることになるなんて思ってなかったな。
夢主(妹)は泣いて喜んでた。
大好きなお友達が出来てよかったね。
さすがに、その日の夕方に九州へ…なんてことを、千鶴ちゃんが出来るわけもなく…。
一君の写真撮りまくって千鶴ちゃんに送ろうかな。
私が一君の写真撮ってたら変かな?ま、いいよね?
朝になって、集合場所へ着くなり、夢主(妹)はものすごい勢いで皆に挨拶をしていた。
そのちょっと後ろで、合宿で顔なじみになった私もぺこりとお辞儀をしてみる。
井上先生と永倉先生と原田先生に、総司と一君と藤堂君と、名前覚えられなかった…なんて言ったら失礼だから秘密だけど、2年生の子と1年生の子が数人いた。
勢い良く挨拶をし終わって、すっかり馴染みこんでる夢主(妹)と違って、私はなんだか浮いちゃってるけど、気にしない気にしない。
「夢主(姉)もよろしくな!」
白い歯を見せてニカッと笑う永倉先生に、さほどやる気は無い私は、会釈で返した。
「じゃあ夢主(姉)は俺と一緒にいるか。」