第7章 横暴な要求
花火が始まる時間になって、人ごみに溢れた通りに出る。
はぐれてしまわないように、しっかりと手を繋いで…
―――ーパァン
夜空に大きな大きな花が咲く。
色とりどりの花火も好きだけれど、私が一番好きなのは、金色の枝垂桜のような大きな花火。
開いた瞬間、空から落ちてくるような感じが大好き。
「この花火が一番好き」
私がぽつりとこぼせば、
「ああ、俺もこれが一番好きだ」
隣から先生の声が聞こえる。
花火を見るふりをして、ちらりと先生の顔を覗けば…
その横顔がとっても綺麗で、思わず見とれてしまった。
私の視線に気がついた先生が、「どうした?」と優しい声と瞳で聞いてくるものだから、繋いだ手はそのままに、先生の腕にぴと、とくっついて、おでこをすりすりとこすり付けてみる。
やっぱり楽しそうに笑う先生は、
「なんだ?眠くなったか?」
なんて言ってきたけど、それを無視して腕にまとわりついたまま、空を見上げて花火を見ることを再開した。
帰りの車。
楽しい時間はあっと言う間に終わってしまうなぁ、なんて少し寂しくなってしまう。
でも「帰りたくない」なんて言ってしまったら、きっと困らせてしまうし、いろんな意味でまずいだろうから言えなかった。
「ねえ先生…」
さっきまでと同じように先生に話しかけると…
「左之助」
話をさえぎられて、真剣な声で先生は言う。
「左之助だ。学校以外で「先生」禁止な。まあ…ある意味、先生って呼ばれるのも悪くはねえが…」
びっくりして、運転をしている先生を見れば、ちらりとほんの一瞬私に視線を向けて口元だけで笑って、すぐに前を向いた。
「ほら、呼んでみろよ」
挑発するみたいに先生はそう言ってくるけど、いきなり左之助とか呼べるわけないじゃん…
「やだ」
可愛くない返答をする。
そんな私をまた楽しそうに笑って、先生は車を路地に停めた。
ん?と頭の上に疑問符を沢山浮かべている私の頬に、先生の長くて細い大きな手が触れた。
そうして、私の顔を覗きこんで、どんどん先生が近づいてくる。