第7章 横暴な要求
助手席に乗り込んで、車の中に広がる先生のにおいをいっぱい吸い込む。
そんな私を楽しそうに笑いながら、ペットボトルの紅茶をくれた。
「何がいいかわかんなくてよ。それでいいか?」
それは私がいつも屋上にいる時に飲んでいたもので…
「これ大好きなやつだよ」
そう言えば、「おぼえとく」と、先生はまた笑う。
何が好きだとか、何が嫌いだとか…
そういえば、私達は何も知らない。
けど、先生はきっと私がいつもこれを飲んでいたのを覚えててくれたんだと思うと、うれしくてくすぐったくて…
「先生大好き」
そう言わずにはいられなかった。
そんな私をまた笑って、
「なんだよ。可愛いこと言ってくれるじゃねえか。」
なんて、軽く受け流された。
先生はどきどきとかしないのかな?
そういえば、先生が赤くなったりした所を見たことがない。
なんだか悔しくなってしまった私は、これからは素直になろうなんて思ってたことを少し後悔した。
花火がある河川敷に着いた頃には、すっかり暗くなっていたけれど、花火までは少し時間があるみたい。
車を降りて、花火を見る場所を探す。
手…繋ぎたいな…だめかな?
少しだけ前を歩く先生の左手をそっと握って、ちらりと先生を見上げてみれば、とっても優しい笑みを向けて、ぎゅっと握り返してくれた。
妹のこととか、学校のこととか…
昨日見たテレビのこととか…
好きな食べ物は何かだとか…
そんなたわいもない話をしながら、私達は手を繋いで歩く。
履き慣れない下駄なことを気にかけてくれて、時々先生は「足、痛くねぇか?」なんて聞いてくれる。
やばいなぁ…先生が優しすぎて、溶けてしまいそうだよ。
河川敷には屋台が沢山出ていて、おいしそうな匂いでいっぱい。
たこ焼きを二人で分けて食べたり、先生がイカ焼きにかぶりついたり…
わたあめが食べたいと、子供みたいにねだってみたり…
こんな風に先生と過ごすのは初めてなのに、とっても楽しい。
繋いでる手に汗をかいてしまうほど、気温は高くて暑いけれど、ずっと手を繋いでいたいと思った。