第5章 夏の暑さと恋模様
おいちょっと待て。ものすごく具合が悪いことはわかった。
今こいつを一人で帰すのもあぶねぇこともわかった。
山南さんと何もないことはわかってる。
でも…やりきれねぇ感情が沸き上がる。
俺が送ってく…って言えねえもどかしさか…山南さんが異様に夢主(姉)と親しく見えるからか…
「…ああ、今日の午後は出張予定でした……間に合わなくはないでしょうが……」
予定表を見ながらぶつぶつ言ってる山南さんに、後先考えずに俺は提案する。
「山南さん、用あるんなら…俺この後授業ねぇし、こいつ送ってくぜ?」
担任でもねぇ、偶然居合わせただけの俺が、送るなんて言い出したらおかしいと思われるだろうか…
山南さんは少し考えて、ふぅ…と小さく息をはくと、
「お願いできますか?一人で帰すのは危険ですので…家に着いたら親御さんに病院に行くよう伝えてください。」
「わかった。とりあえず…この授業終わったらすぐに来るからよ。」
「よろしくお願いします。では苗字君、授業が終わるまで寝ていなさい。荷物は山崎君に頼んで持ってきてもらいましょう。」
夢主(姉)を車に乗せて、家へ向かう。
相変わらずふわふわしたままの夢主(姉)だが、熱が高けぇのか呼吸が苦しそうだ。
寝てろ、と言って車を出す。
目を閉じて頭を窓にもたれかけながら、
「原田先生ってさ~…弱ってる時現れるよね~…」
と、ぽつりと呟く。
確かに…我ながらタイミングがいいというか…悪いというか…その言葉に思わず苦笑する。
「…でも、先生にならわがまま言いやすいから助かるかも。」
目をつむったままそう言う。
久々に夢主(姉)と二人だけで会話できることがうれしい。
「お前のわがままなら、いつでも聞いてやるさ。」
思ったままを口にすると、
「あははは…相変わらずかっこいいこと言うね~…」
と、夢主(姉)は笑ってる。
なんでもきく…つったって本気だとは思ってねえな。
「本当だぜ?お前限定だけどな。」
さっきの山南さんとのやりとりを見ていたせいか、俺は何か焦ってる。
「……ほんと?」
閉じていた目を少しあけて、俺の方を見た。
「嘘言ってどうすんだよ」