第5章 夏の暑さと恋模様
そんなことを思っていると、さっきまでにこにこと穏やかな優しい表情だった山南さんが怖い顔をして夢主(姉)の元へ移動していた。
「いつからですか?」
山南さんの声がいつもより厳しい。
「やだなぁ…山南先生。怖いよ?ちょっと具合悪いっぽいから1時間寝かせて?」
夢主(姉)はいつもの通りだ。
いつもと違う山南さんの様子に固まっている女子生徒は、山南さんに「君はもう戻りなさい」と、少し優しく言われ、慌てて保険室を出て行った。
山南さんは夢主(姉)の額に手をあてて、自分の額と比べた後、さっと体温計を取り出して夢主(姉)に渡す。
「すぐに帰りなさい。」
「…無理。多分今帰ったら途中で死ぬかも。」
「何故そんなに熱が上がる前に来なかったのですか。」
「気がついたら世界がぐるぐるしてたんだもん。」
見たこともないような厳しい表情の山南さん相手に、まったく普段と変わらず普通に話す夢主(姉)。
山南さんとは仲がいいらしい。
それに…山南さんは夢主(姉)を一瞬見ただけで、熱が高いことがわかったのか…まあ、保険医だもんな…
こんな時なのに…とてつもない嫉妬心が沸き上がる。
女子生徒は戻ったというのに、俺はこの場から離れられない。
「も~…そんな怖い顔しなくたって…ただちょっと熱出ちゃっただけだってば。ねぇ?原田先生?山南先生こわいよね?」
へらへらと笑ってそう言って、立ちあがろうとした。
ガタン
立ちあがろうとした夢主(姉)はその場にへたりこむ。
「おい――」
支えようと近づいたが…俺より先に、山南さんが夢主(姉)を抱きかかえた。
「あれれ?力入らないや」
山南さんに抱きかかえながら、なおもへらへらとそんなことを言う。
「…仕方ありませんね。送りましょう。熱も高いし病院に行かなくてはいけませんし…」