第5章 夏の暑さと恋模様
「ね~超痛いんだけど!私歩けな~い。先生だっこして?」
授業中、校庭を走ってた女子生徒が転んで擦り傷を作った。
大した傷ではなかったが、保健室行ってこいと言えば、そんなことを言って甘えてきた。
4月あたりに雪村をこうやって運んでから、運べっつー女子生徒が出てきた。
女に甘えられるのは嫌いじゃねぇが…こいつは女ってより…全くのただの生徒なんだけどな。
まぁ仕方ない。痛てぇってんだから連れてくか。
適当に走っとけ、と指示を出して、女子生徒を抱えれば、他の生徒が騒ぎ出す。
ちゃんと掴まっとけよ、と言って、抱えたまま保健室へ行く。
甘える、か…そういえば……あれ以来夢主(姉)は俺のとこに来てねぇな。
もう2ヶ月くらい経つか…
最近は授業もさぼってないらしく、顔が見たくてたばこを言い訳に屋上に行ってもいない。
教師と生徒の壁か…
夢主(姉)から来ないかぎり、俺から行くことはできねぇんだからな…。
着信ねぇかな…だとか、体育準備室に来ねぇかな…だとか考えちまう。
授業中、あいつの姿を目で追わないようにするのに必死だ。
たかが高校生相手に翻弄されすぎだろ…と、自嘲の笑いが込み上げる。
保健室に着いて、山南さんに女子生徒を預ける。
「これはこれは…随分と過保護な…」
ただの擦り傷の女子生徒を抱えてきた俺に、山南さんは苦笑する。
「痛くて歩けねぇっつーからよ。」
「それはいけませんね。少し強めの消毒液を使いましょうか…」
あきらかに痛くなさそうな女子生徒に、山南さんが眼鏡を光らせた。
…山南さんって意外とアレだよな……そんなことを思った時だった。
「山南せんせー?失礼しまーす。」
夢主(姉)?
声につられて出入口を見る。
夢主(姉)は俺を見つけて、にこりと笑って、
「あ…原田先生、なんだか久しぶり~」
と、言ってきた。早くなる鼓動を隠しつつ、おう、と一言答える。
山南先生の消毒を受けていた女子生徒は面白くなさそうな顔をしてる。
夢主(姉)の敵の多さに思わず笑ってしまう。
そういや…まだ授業中なはずだ。
夢主(姉)を見れば、なんだか様子がおかしい。
具合が悪いような辛そうな顔はしてねぇんだが…なんだかふわふわしてねぇか?