第4章 葉は緑、空は雨色
じゃ、と言って帰る方向を向いてから、あ…、ひとつ言い忘れてた。
「藤堂クンも試合だよね?がんばってね。」
振り返ってそう言えば、未だに渡したお弁当箱を持ったまま立っている藤堂クンがいた。
驚き屋さんなんだなぁきっと。かわいいなーなんて、にまにま笑いながら帰る。
夢主(妹)の試合見たかったけど、まあしょうがない。
ここで一君と鉢合わせるのは絶対嫌だし。
さっきまで人集りが出来ていた場所まで来ると、もう人集りは無かった。
総司の番が終わったのかな?見てみたかった気もするけど…と、思いながら通り過ぎる。
一君の姿見ちゃったし…なんだか総司はすごい人みたいだし…夢主(妹)には会えなかったし…あ、藤堂クンかわいかったなー…なんてぼーっとしながら、曲がり角を曲がった。
ドンっ
反対側から来た人とぶつかってしまった。
何か硬いものにぶつけたみたいで、おでこが痛い…
痛むおでこをさすりながら、ぶつかってしまった人に謝ろうと顔を上げる。
ぶつかってしまった人は、とても背が高くて金色の髪の毛をしていて、見下ろされている私は、なんだか蛙になった気分になった。
「あ…ごめんなさい」
目つきが怖いなーなんて失礼な事を思いながら謝れば、
「いや、悪い。」
怖い顔のまんまだったけど、謝ってくれた。
すーっと、撫でていたおでこに手が伸びて来た。
「?」
蛙になった私はそのままおでこに触れる手を見上げる。
「ちょうど釦にぶつかったようだ。大丈夫か?赤くなっている。」
怖い顔とそれに似合う低い声とは裏腹に、なんだかとても優しい。
「あ…うん。大丈夫。こちらこそぼーっと歩いててごめんなさい。」
怖い人じゃなさそうだなーなんて、おでこを親指でさすられながら、さらさらと風に揺れる綺麗な髪の毛を見た。
真っ白い学ラン?珍しいなー…なんて思っていると、
「薄桜の生徒か?お前も剣道部か…?」
「ううん、違うよー。ちょっとお届けものをしに来ただけ。」
おでこから親指が離れて、さすられていたことを思い出す。
「ありがとう」
なんとなく、おでこのお礼をすると、ふっと怖い顔に笑みが加わった。
「…沖田の見物人か?」
そう言うと、笑みが消えて怖い顔が戻る。