NONFICTION【家庭教師ヒットマンREBORN!】
第12章 大切なもの
『…………』
考え込むスクアーロを見て、一度口を開くが直ぐに閉じた
不意に浮かんだその言葉は、口にしてはいけないもの。もうとっくの昔に心の奥底に封じた言葉
『びっくりだよね!私も最初めちゃめちゃビビっ…た…』
あせあせと動く口を閉ざすように、黒革の手袋が顔を覆った
それは他の誰でもない、スクアーロによるもの。顔面ごと鷲掴みするその手にはほとんど力は入っていなかった
「無理すんな」
たった一言。
それだけでずっとつっかえていたものが、急に砕けて無くなって、ぽっかり穴が空いたような感覚
その穴に流れ込む、激流
『わた、し…泣いてないですよ、たいちょー』
はは、といつもみたいに笑って見せようとするけれど、乾いた音しか出てこない
"どうして、わたしは他の子とちがうの?"
ぐっと噛み締めた唇。でもそこに入った力は一瞬で緩みそうになる
空いた穴に流れ込む激流に流されそうになる。負けそうになる。ずつとずっと、押さえ込んでいたそれが内側から引きずり出されそうになる
やだ、だめだ
見せたくない
「....ったく、めんどくせぇなぁ"」
呆れてる…
てか、まだ泣いてないし…、たいちょーが、変なこと言うから
『わっ』
顔を柔く掴んだ手が上に移動して、前髪よりも上の方をわしわしと乱暴に掻き乱す
『も、ちょっ、たいちょっ!?なに!』
「らしくねぇなぁ"!さっさといつものアホに戻りやがれ!」
ほら、そうやって
隊長が変なことするから
『…っ、らしくないのはどっちだよ…』
じわりと滲んだものを袖に拭って、いつもの様に見上げてやる
「泣いてねぇんじゃなかったのか」
『うっさい、泣いてないわ』
挑発的に鼻で笑って、今度は掻き乱すことなくただ頭に手を置く
流れかけたあの言葉は、どこかへ行ってしまった。
空いてしまった穴は周りの壁ごと風化した。
つっかえることさえない、まっさらな空
私の空がどこまでも澄み渡ったような気がした