第2章 後編
「つーか彼氏どこよ。彼女がこんなに頑張ってるのにさ」
「どうせ置いてけぼり食らって一人でイジケてんだろ」
「うわ~最悪。キモ~い!」
ばしゃんっ!
彼らに向かって思いきり海水を掛けていた。
「あんたたちの方がよっぽど最悪最低だ!!」
あまりの怒りで声が震えた。
こんなに腹が立ったことが今までにあっただろうか。
我慢が出来なかった。
「何この女! マジムカツクんだけど!!」
海水が目に入ったらしい女がひとり、すさまじい形相で近寄ってくる。
構わずに言い続けるユメ。
「彼は、すごくカッコ良くて、すごく優しい、最高の人よ!」
(彼のこと、何も知らないくせに……!)
悔しくて悔しくて、不覚にも涙まで溢れてくる。
女がユメの目の前で手を振り上げる。
反射的にきつく目を閉じる。
バシっ!!
嫌な音がコバルトブルーの海に響く。
……でも。
(あれ? 痛くない……?)
疑問に思いながらそろそろと目を開けると、目の前で女の手が止まっていた。
その女の腕を掴む、横から伸ばされたもうひとつの手。
ユメは目を見開く。
いつの間にか隣に彼がいた。
「トランクスさん……?」
呆けた声を出すユメ。
(なんで、トランクスさんがここに……?)
「トランクスって、あのカプセルコーポのイケメン若社長!?」
ギャルの一人が興奮したように高い声を上げる。
腕を掴まれているギャルも、心なしか顔を赤くしてトランクスを見上げている。
だがトランクスは彼女の腕をぞんざいに離し、険しい顔で口を開く。
「この子に危害を加えることは許さない」
今まで聞いたことのない、低い声。
女は何か言いたそうにしたが彼の迫力に負けてしまったようだ。
連れの男たちに助けを求めるように背後を振り向く。
するとすぐさまギャル男たちが汚い言葉を吐きながらトランクスに向かってきた。
ユメを守るように前に出るトランクス。
「トランクスさん!」
たまらず叫ぶ。
どう考えても数的にこちらが不利だ。
それに今彼は苦手なはずの海にいる。なのに。
「すぐ終わるから」
そう言いこちらに笑顔を向けた。