第1章 短編集1
溢れ出てくる涙と雨に区別が無くなるくらい泣いて、同じ様に空も泣いた。
ピルルルルッ・・・ヴーヴー
相手を確認する余裕もなかったが、長年の癖でボタンを押していた。
「・・・はい」
「どういう事だ、中絶って!」
もしもしとも言わなかった電話の相手はマチだった。何処からともなく情報が洩れたようだ。
「そのままの意味だよ。・・・あまり言わないでくれるかな、決心が揺らぐから」
「いい加減にしろよ・・・あの子がどれだけ・・・おい、離せ!!」
徐々に遠のくマチの声を引き継いだのはパクノダだった
「もしもし?決心が揺らぐくらいなら、もう産んだ方がいいと思うわ。貴方の事だから中絶の方法とか調べたんでしょ?調べてからだったらカルマを起こしかねないもの。」
カルマ?そんなの・・・
「オレは・・・今から殺人をするって事は一生背負わなければならないだろ?」
「貴方の言っているのは他人の話でしょ?今言っているのは、自分の子供なら別の話よ。違いにまだ気付かないの?」
気付いてる 気付いてるけど
「・・・・・・・・・どうすればいい・・オレは・・・どうすれば・・・」
「彼女に寄り添ってあげなさい。心の不安は妊婦に悪い影響を与えるわ。それに、男が女を不安にさせるなんて愚行よ。・・・全く悪い男ね。」
「・・・ありがとう」
「赤ちゃんが産まれたら病院行くから。旅団でなるべく世話もするから安心なさい。」
「うん・・・う、ん・・・っ」
頑張って、と言ってパクノダは電話を切った。
の元へ帰るとは机に突っ伏して寝ていた。の服には涙で濡れた跡があって、つくづく自分の愚かさを呪った。
彼女を背中から抱きしめた