第1章 短編集1
中絶をするのは旅団の為であり、彼女と子供、そして自分の為である。今まで通り旅団に情報も届くし、彼女も子育てにあたっての苦労も背負うことはない。子供自身も、旅団員を両親に持つ事はないので孤独感等に苛まされる事はない。じゃあ、自分は?"旅団員の自分"ではなくて、"自分自身"の為になるのか?
彼女の気持ちは?
自分の気持ちは?
「シャル・・・ごめんね」
「いいんだよ、別に」
何に対しての謝罪かは聞かずに、いつもの様にパソコンに向かうのに対して、気分はいつもの数千倍も不安に染められていた。
「シャル、調子悪いの?」
「ううん、大丈夫」
中絶方法について書かれたサイトを見ていた。
実に非道い内容だ。
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まず、弱い全身麻酔を打ち、ラミナリアという水分を子宮の入り口が含むとゆっくり膨らむのを利用し、子宮の入り口を広げる。拡張器を使い広げ、胎盤鉗子や流産鉗子で子宮内の内容物(胎児)を取り除きます。最後はキューレットという器具で子宮内膜を掻爬。
暗闇と言えど、胎児も五感がある。勿論痛覚も、恐怖感も。胎児の命を奪おうと挿入された鉗子や鋏等を察知し、羊水の中に逃げようとするが、逃げ場のない胎児は生存しているにも関わらず腹の中で鋏でバラバラにされ、吸引機で体の外へ出される。その際、頭は吸引機の管に入らないので専用の機器で挟み砕かれ吸い出す。
(一部抜粋)
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12週目以内なら胎児は物扱いになるので殺人にはならない。そして12週目以降も人と認められる存在になるが、殺人にはならない。・・・法的にはの話だが。
女性だと腰が痛くなる話ではないだろうか。
男の自分でも気分が悪くなった。普段あんなに血を、臓物を見ていると言うのに。フェイタンの拷問だって数え切れないほど見ていると言うのに。
そして近い日に記述の様に砕かれら掻き出される子供は自分と愛するの子。対象が変わるだけでこんなにも感情が揺さぶられるなんて思いもしなかった。きっと少しは悲しくても、次の日にはケロッとしててどんどん忘れていってと、数十回目の殺人の様なんだろうと。時々観て泣く映画の様なモノなのだろうと。