第3章 3
ブザーが鳴って、呼出音が鳴る。
しかしいくら呼出音が鳴っても、人が出ない。
そして五コール目に、ぶつりと雑音が途切れるような音がして、バツン、とブレーカーが落ちた、ような音と共に、電気が消えた。
「キャーッ」
自分から出たとは思えない悲鳴をあげていた。
突然の暗闇に、本能的に驚いてしまったのだ。
「うおっ……マジか……」
彼も驚いている。
「あ、MOMIKENさん…どこですかぁ…」
下心とか抜きにして、誰かに頼りたくなる瞬間だ。
それなりの広さのあるエレベーターが、この時ばかりは憎い。
何があるのか(おそらく何も無いけれど)わからない空間が広がっているのは恐怖を覚えるものだ。
手を伸ばして彼を探すと、すっと、手が触れた。
熱い、手。
細身だけれど、少し節くれた男性の手だ。
「大丈夫ですか」
「あ、、ありがとう、ございます」
彼の手に握られて、どくどくと心臓が鳴り出す。
この孤独な二人だけの暗闇が、二人の繋がった熱だけを余計に感じさせて、私は震えないように、必死だった。
「なんか、よく分かんないですけど、大声とか出して人呼びましょうか、ここ一階みたいですし」
「ですね、誰かいるかも」
「じゃあ、せーの、で、笑」
ちょっと可笑しくて彼が笑ったのが分かり、私もつられて笑う。
「じゃあ、せーの、で、ですね、笑」
「はい、笑」
「「せーの、」」
「「………………………」」
二人共、何を叫べば良いかわからずに、何も言えずにモゴモゴしていた。
それが可笑しくて、二人で笑ってしまう。
「ちょっと、何で何も言わないんですか!」
「だって、何て言えば良いか分かんないじゃないですか」
「まー、確かに」
「でしょ」
ひとしきり笑って、少し気分も落ち着いてきていた。