第3章 3
「MOMIKENさんが誰なのか知らなかった時から気になってました、でも、もう、MOMIKENさんのことを良く知る前に、バンドマンとしてものMOMIKENさんを知っちゃって」
「あの」
「私、MOMIKENさんから見たら、ただの一ファンなんですよ」
「待って、」
「だから…」
「ちょっと待って、ください、」
私が急くように吐く言葉を遮って、彼は、少し怒ったような顔をしているように見えた。
その表情に私の顔も一瞬強張る。
いやすでに強張っていたのかもしれないが、とにかく少しびくりと震えた。
しかしすぐに、それは杞憂だったのだと知る。
エレベーターが、動いていないのだ。
表示は一階、エントランスのまま。
「あれ?」
「このエレベーター止まってるっぽいっす」
「ボタンを押してない、とかじゃ、無いですよね」
念のために押してみるが、エレベーターは無反応だ。
「なんかおかしいなーって思ってたんだけど、これちょっとヤバイですね」
「そこのボタンで人を呼びましょう」
幸い一階なのもあってそれ程ヤバイ状況にも思えなかったが、なんとなく不安も残る。
薄いアクリル板の下にある非常ボタンを押す彼の指先をぼんやり見つめていた。
爪は黒いネイルで彩られている。
白い指先にとても良く映えいた。