第3章 3
あー言っちゃった。
私がファンだと分かれば、彼はきっと一線引いて、もうこれ以上歩み寄ることはないだろう。
けれどこれで良かったのかもしれない。
どうせどの道、そんなものだ。
彼に言われた「綺麗ですね」という言葉が胸にじんわり沁みている。
何気ない会話の一つだろうけれど、宝物のように嬉しかった。
それだけでも十分すぎるほど。
こんな奇跡ない。
その上、CDの感想も言えたし、大人の付き合いとして、これ以上良いやり取りはないと思えるほど、さっきの会話は完璧だったんじゃないかとすら思った。
「……………いや、あのですね」
「あ、はい」
何やら頭をかいていた彼が身体ごと振り向いて、私は少し改まる。
先が読めない。
「さっきナンパみたいって言いましたけど、本当はナンパって言うか、その、ナンパっていうとちょっと軽いんですけど、もし良かったら少しお話とかしたいなって思って、声を掛けたんですよね、俺」
「え…」
「何回かすれ違っただけですし、貴女のこと何も知らないんですけど、なんか気になってて」
「あ………」
「良かったら、今度少しお時間いただけませんか」
まるで仕事のやりとりのようにそう言われて、私は完全にフリーズしていた。
「ええと、つまり、ナンパってことですか…」
「まあ、うん………いや、はい、そうです」
「……ファンでも良いんですか」
「いや、実際、かなり、動揺してるんですけど、俺が気になってて声掛けたかったひとだったんで」
「私、MOMIKENさんのこと好きなんですよ」
「えっっ、え、あ、ありがとうございます、いやありがとうございます、ですけど」
彼は、困ったように笑っている。
私もどうしたら良いか分からなかった。
彼とまるで夢のような会話をしているのに、なんだか気が重い。
きっともう終わりだと、最終的にはフラれてしまうのだと、頭の隅でそう思っている。