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23時、エレベーターにて

第3章 3



「あの、」

彼の声に私は驚いて「は、」と間抜けな声をあげていた。

唐突なコンタクトに、脳が追いつかない。

「あ、すいません、こないだも夜に会いましたよね」

彼は、そっと振り向いて、少し笑った。

「あ、えっと、そうですね、こないだっていうか、結構前ですよね」

「そういやそっすね、時間が経つの早くって」

「アハハ、分かります、もう20代後半にもなると一週間があっという間で」

「もう一年かよって気になりますよね」

「あは…………はい………ですねえ…」

「…………」

そこで沈黙が訪れて、私はどうしたら良いかわからずに苦笑いで目を泳がせる。
人間、思いもよらないことが起こるとどうしようもなくアドリブが効かないものらしい。
自分の顔が赤面しているのが分かる、それが余計に私を焦らせる。
彼は、黙って、笑いとも真顔とも取れないような表情でこちらを見ている。
何か言わなくちゃ、どうしよう。

「いきなり失礼ですけど、お姉さん、綺麗ですよね」

「え…」

「いや、こないだもそう思って。キレーな人と夜のエレベーターで二人きりって緊張するじゃないですか、だから覚えてて」

「ああ………、いや、そんなことは」

「っていうか、これナンパみたいですね、ごめんなさい」

「えっ、いや、全然です、全然、気にしてないですから、というか、話し掛けられると思ってなかったのでちょっと驚いて」

気にしてないとか、何を言っているのか自分でも分からない。
けれど彼に褒められて嬉しくない訳もなく、どんどん顔は赤くなって、火が出そうなほど、熱い。

「………、いきなりほんとすいません」

「いや、あの、ほんと、何て言ったら良いのか」

「……ん?」

口をパクパクさせている私に優しく次の言葉を促す。

「あの…………MOMIKENさん、ですよね」

私の言葉に少し驚いたようにして、彼は、ああ、と頷く。

「知ってるんですか、俺のこと」

「この前、テレビに映ってましたよね」

「あはは、どれだろ」

「テレビ見て、MOMIKENさんがMOMIKENさんだって知って、最近CD買ったんです…、えっと、あの、すごく素敵でした」

「……マジか、…あ、いや、なんか、そう言われると照れますね、あー、いや、そっか、知ってたんだ、っていうか、知ってくれてたっていうか」

彼も少し挙動不審になっている。
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