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23時、エレベーターにて

第3章 3


そうこうしている内に、二ヶ月ほど経って、季節はいつの間にか夏が終わろうとしていた。

私は相変わらず彼を目で追っていた、同じマンションとはいえ、住人同士がすれ違うことは滅多にない。お隣さんですらよく知らない。そんな中でも、彼の生活リズムと近かったのか、この二ヶ月の間にもほんの一瞬だけ背中を見つけたりして、私はたったそれだけで、酷く浮かれた気持ちになっていた。
この気持ちが何なのかもうわからなくなっていたけれど、普通に、ファンでも良いんじゃないかと開き直っていた。
どうせ望みはない。
もしもまた会えたら、ファンですと言ってサインでも貰えないかな、そんな事すら考えていた。

蝉の声も弱々しい、夜も随分静かになったな、と、青葉の茂る桜並木を歩く。
暗がりの中、マンションまで続く並木道は街灯がぽつぽつ光っていて、やわらかく足元を照らしていた。

今日は会えるかな。

偶然彼に会えるかもしれない可能性にかけて、最近は髪もメイクも丁寧に頑張っている自分がいた。
もしかしたら家までのこの道で偶然会えるかも。
そう思うと足取りも軽い。

しかし気が付けば早くもエントランスに着いていて、「まあ、そんなに上手く行く筈がないよね」と、軽くため息をついて、エレベーターに乗り込んだ。
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