第2章 2
エレベーターで一緒になった日から、私はずっとぼんやりしていた。
職場で同僚に具合でも悪いのかと訊かれ、あまりにもベタな反応を示していた自分に恥ずかしくなった。
思えば、高校生の時に初めて誰かを好きになった時、こうだった。
恋をすると、こんな風になってしまうのだ。
「好きな人ができたみたい」
と、喉元まで出かかって、私はその言葉を飲み込んだ。
好きな人が普通の人なら良い、何の問題もないだろう。
でも今私が好きな人は、芸能人だなんて。
あまりにも望みがなくて、情けなくて、馬鹿馬鹿しい気がして、恥ずかしかった。
子供ならそれでも可愛いだろう。
もう、大人なのに。
そもそもこれは恋なのだろうか。
彼に惹かれている。
彼のことなんか、何も知らない癖に。
ずっと胸の奥がふつふつとして、熱い。
彼と会いたい。
また会えるかな…。
飲んでいたアイスコーヒーを吸い込む。
同僚には「最近色々あって」と誤魔化した。
CD屋なんて高校生以来だ。
袋に入ったCDの重みを感じながら、帰路につく。
とりあえず出ているアルバムを買って、家で聴くことにしたのだ。
彼は歌わないけれど、どうやら歌詞は彼が書いているらしい。
彼の言葉を読めるのかと思うとどきどきした。
帰ってから歌詞を隅々まで読んで、眠りについた。
夢の中で彼に抱きしめられて、起きた瞬間、あまりにも幸せで、これは恋、というか、危ないような、そんな気がした。
私は痛々しい人間だ。
こんな私の日常を知ったら、彼はきっと、優しく苦笑いでごまかして、そうした上で、私を心底嫌うだろう。