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23時、エレベーターにて

第3章 3


「さん…」

あの、と、彼の手が肩に触れる。

ああ、熱い手のひら。

「さん、いきなりこういうこと、本当は良くないと思うし、失礼だし、軽く思われるかもしれないんだけど、」

「今だけ、ごめん」そう言って、ぐっと引き寄せられて、抱きしめられる。

想像よりも逞しい腕の中で、私は、泣きそうになっていた。夢よりもずっとリアルな感触。大きな腕に包まれると温かくて、彼の匂いでいっぱいで、少し余裕なさそうな彼の声が切なかった。

「ごめん、さん、なんか、抑えられなくて」

熱い吐息が近付き、唇が触れ合う。

触れる、というか押し付けられるような勢いで、私は少し仰け反った。

「、さん、好きだ…」

唇が触れ合ったまま、言う。
そのまま舌が溶け合った。

彼の手に導かれて私の手のひらを彼の心臓付近に当てられる。

「ちょっと聴いてみてよ、俺の心臓の音」

「あ…………」

バクバク、すごく鳴っている。

「俺、めちゃくちゃ緊張してる………」

さん、全然フツーそうで、俺だけこんなだよ、情けねえーと、笑う。

「MOMIKENさんより私のが、すごいですよ…」

「えー、嘘、確かめようかな」

「…!」

「嘘、いまのナシ、今のセクハラだから」

「やっぱナンパじゃないですか」

「ああっ、もう、嘘!嘘!だから許して、いや、許せ!!」

「あははっ」

素っぽい彼の仕草や言葉遣いが可愛くて、思わず笑みが溢れる。

ああ、あのテレビでみた笑顔、そのままなのだと思った。
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