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23時、エレベーターにて

第3章 3


「やー、しかし暑いっすね…」

沈黙を破って、彼が言う。
こんな時間だし、と、おもむろにスマートフォンをポケットから取り出した彼、と、それを見た私が同時に「はっ」と顔を見合わせた。

「これで人を呼べば良かったんだよ、俺!!」

「私も普通に気付かなかった………」

自分のスマートフォンを取り出して、その明るい画面を見て、私は画像フォルダに入った沢山の彼の写真のことを思い出し、少しぎくりとした。
見られたら、ストーカー扱いされるだろうなあ。
まあどうせファンだって言ってしまったし、いいかな、とも。

「MOMIKENさん、とりあえず、不動産屋さんの緊急電話番号入ってるので、そこかけてみましょうか」

「あー、さん、ちょっと待って」

「あ、どこか別の電話番号ありますか?」

「いや、そうじゃなくて」

私が電話をかけようとしていた手を軽く押さえて、また彼の手が触れた。
またそこからどきどきと心臓が鳴ってしまう。
いっそすっぱり諦めたいのに、身体は言うことをきかない。

彼は、真面目な顔をして、私を見てくる。

その真っ直ぐに見つめる目が、私を捕らえて、私は動けなくなる。

好きな人にそんな表情で見られたら、誰だってそうなるだろう。

「さっきの話の続きなんですけど、さん、俺のこと、好き、なんですよね?」

好き、という単語にどきりとする。
自分で言っても平気だったのに。

「MOMIKENとして、の、俺、でも良いです」

ひと呼吸おいて、彼は一言一句ゆっくりと発音する。

「俺自身のことは、これから色々、知ってもらえたら、それで良いので」

「…………」

「俺のこと、嫌いじゃないなら、壁を、作らないで、欲しい、です」
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