第3章 3
「やー、しかし暑いっすね…」
沈黙を破って、彼が言う。
こんな時間だし、と、おもむろにスマートフォンをポケットから取り出した彼、と、それを見た私が同時に「はっ」と顔を見合わせた。
「これで人を呼べば良かったんだよ、俺!!」
「私も普通に気付かなかった………」
自分のスマートフォンを取り出して、その明るい画面を見て、私は画像フォルダに入った沢山の彼の写真のことを思い出し、少しぎくりとした。
見られたら、ストーカー扱いされるだろうなあ。
まあどうせファンだって言ってしまったし、いいかな、とも。
「MOMIKENさん、とりあえず、不動産屋さんの緊急電話番号入ってるので、そこかけてみましょうか」
「あー、さん、ちょっと待って」
「あ、どこか別の電話番号ありますか?」
「いや、そうじゃなくて」
私が電話をかけようとしていた手を軽く押さえて、また彼の手が触れた。
またそこからどきどきと心臓が鳴ってしまう。
いっそすっぱり諦めたいのに、身体は言うことをきかない。
彼は、真面目な顔をして、私を見てくる。
その真っ直ぐに見つめる目が、私を捕らえて、私は動けなくなる。
好きな人にそんな表情で見られたら、誰だってそうなるだろう。
「さっきの話の続きなんですけど、さん、俺のこと、好き、なんですよね?」
好き、という単語にどきりとする。
自分で言っても平気だったのに。
「MOMIKENとして、の、俺、でも良いです」
ひと呼吸おいて、彼は一言一句ゆっくりと発音する。
「俺自身のことは、これから色々、知ってもらえたら、それで良いので」
「…………」
「俺のこと、嫌いじゃないなら、壁を、作らないで、欲しい、です」