【イケメン戦国】*ヒメゴト* 戦国時代に舞い降りた現代の姫
第3章 どうやら夢じゃないらしい。
「逃げちゃった」
彼らが追ってこないだろうところまで走ると、一人ごちた。
本能寺と呼ばれた――寺からかなり走った、林の中に由里はいた。
もちろん、現代とは違いライトの類はないので、まだ夜の今は真っ暗である。
その中を走ってこれたのは、我ながらすごいと思ってしまう由里であった。
「さて、どうしよう。てゆーか、本当にここは現代じゃないの……?あ、あったあった」
ガサゴソ、と自分のカバンを探すと、あまりに似つかわしくないであろう、無機質なそれを手に取った。
スマートフォン。
「あー……圏外か、やっぱり」
確か、車で走っていた山の中はぎりぎり圏外ではなかったはずだった。
「本当に、タイムスリップなのか……」
リン……
リン……
「!?」
その時だった、この虫の声しかしない林の中に、明らかに異質の、リズムのある音が聞こえたのは。
リン……
リン……
鈴、である。
リズムがあるのは、歩いているから。
だんだん大きくなるのは、由里に近くなっているから。
「ッ……」
額に脂汗がにじんだのがわかった。
それほど恐れているのか。怖いのか。
由里は自分が自分でなくなりそうな感覚を味わった。
人はオーラ――気をまとっていると聞く。
無論普通の人間はそんなもの見ることも感じることもできないが――明らかに、今、近づいてきているモノは、何か邪悪なものをまとっていると感じる。
そう、どす黒い、禍々しい、そんな言葉が似合うだろう。
鈴の音がだんだん大きくなり、次第にぼうっと、黒い影が見えるようになった。
座っている由里と比べれば差は歴然、とてつもなく大きく感じる。
相手もこちらに気づいているのだろう。
ゆっくりだが、まっすぐ、よどみなく近づいているように感じ取れた。
そして、口開く。
「お嬢さん……こんな夜更けに何をしていらっしゃる」
「!!」
ドクリと。
心臓が大きく脈打つのがわかった。