【イケメン戦国】*ヒメゴト* 戦国時代に舞い降りた現代の姫
第2章 夢見る如く
「…………命拾いしたな……」
好機と思い命をねらっていたであろう、刀を持っている男性は、つぶやく。
ニヤリ、と不吉な笑みを浮かべている。
そう、いつでもやってやる、と言わんばかりに。
「……つッ……はやく、逃げよう!!」
強引によけた時に、その刀の切っ先が肩が触れたのも気にせずに。
由里は、狙われた男性を強引に立たせ、手を引いて。
とにかく、走った。
自分が介入したからには、しかも顔を見られたからには、狙われるかもしれない。
殺されるかもしれない。
(殺されるのは、ごめんだッ!!)
いつ死んでも良いとは思っていた。
だけど、殺される、なんていう最悪な死に方はまっぴらごめんだ。
走って、走って、走って。
手を引いたまま建物の外に出た。
髪も、化粧した顔も、知ったこっちゃない。
とにかく、外に出るのに必死だった。
「はぁっ……はっ……」
息が切れた。
ふと、走ってきた方向を見やる。
そこに見えたのは、お寺のような構えだ。
何度もいうが、先ほどまで車の中にいたはずで、寺にはいなかったはずだ。
火事で、今真っ赤な炎と、黒い煙が見える。
「おい、いつまで手を握っているつもりだ」
由里はハッとする。
初めて、手を握ったままだったことに気づいた。
「あっ、ごめんなさい」
思わず謝り、手をそそくさと離す。
そこで初めて、相手を見て。
由里はわが目を疑った。
「ちょ…え?」
その、容姿端麗で、サラリとした髪の毛に似つかわしくない、甲冑姿が、由里を見下ろしている。
「あは……なんでコスプレ?こんなとこで?」
否、コスプレのそれではない、あきらかに重量のあるものが身体を覆っているのだ。
そういえば走っている時にやけにガチャガチャ何か擦れる音がしたな――と、やっと鮮明になってきた頭で思い出す。
「こす……?女、どこぞの娘か知らぬが、助けられたようだな。礼を言ってやろう。
だが貴様も、珍妙な恰好をしておるぞ」
「珍妙とは、レディーに失礼ね」
思いっきりにらんでやった。
とはいえ、仕事帰りなので、かなりラフな格好――キャミソールに短パンである。
髪も仕事でヘルメットをかぶっていたからボサボサだし、化粧も、この後予定がなかったからおざなりだ。
「きさ――」
「信長様!ご無事ですか!!」