【イケメン戦国】*ヒメゴト* 戦国時代に舞い降りた現代の姫
第5章 懐疑心は忠誠心 短気は損気
「明智、光秀……あなたが」
明智光秀。
由里の中では、【明智光秀】と言えば、織田信長の家臣だったが謀反を働き、自決に追い込んだ武士――として、記憶していた。
そして由里の目撃した本能寺の変の、犯人であるべきだった。
「貴様、光秀と知り合いだったか」
「……まさか」
「俺も覚えがないな」
当然と言わんばかりの顔をして首を振る光秀。
それはそうだ、由里が一方的に、歴史書で知っているだけの存在だ。
「本当か? 光秀、お前たまに行方不明になるだろう。どこで何をやっているか報告もない」
なおも疑いの目を向けるのは秀吉だった。
「お前に報告する義務はないだろう」
「……なんだと?」
(この二人……仲悪いのかな?)
2人の火に油を注ぐような言動を聞いての率直な感想だ。
「秀吉……そのへんにしておけ。今は口喧嘩をする時ではないだろう」
「……は」
信長に咎められ、おとなしく身を引く秀吉だった。
きっと内心では、光秀のことをもっと追求すべきだと思っているのは確かだろう。
「最後はお前だ、家康。
……そう嫌そうな顔をするな」
家康、と呼ばれた丹精な顔立ちをした青年は、心底嫌そうに……というより面倒くさそうに眉をしかめていた。
「なんで、あの人たちの喧嘩のあとに自己紹介なんてしなくてはいけないのか、わかりかねますよ、まったく。
…………徳川家康」
そう自分の名前だけつぶやくと、視線がぶつかることもなくそっぽを向く。
「えっ……家、康……!?」
気落ちしているわけではない。
そのやる気のなさと素気のなさに、心底驚愕しているのだ。
そう、由里のまわりには、戦国時代の名立たる武将が勢ぞろいしている。
「家康は薬や治療に詳しい。この後、その刀傷をよく見てもらえ」
「……刀傷?」
不審そうに、家康は由里を見る。
「あ、本能寺の時のあれですね? 本当大したことないですよ?」
ぺろり、と着物の袖を捲る。
包帯として使われている布に、わずかに血がにじんでいたのに気づき、由里はすばやく隠した。
「……」
当たり前だが、家康は不審そうな顔をやめる気配もない。