【イケメン戦国】*ヒメゴト* 戦国時代に舞い降りた現代の姫
第4章 夜駆ける
「ち、近いです」
由里は思わず顔を反らすが、それも叶わず、顎を持たれて向き直されてしまった。
政宗はというと、その反応を楽しんでいるようだ。
「安土城に、着いたぞ」
横から秀吉の声がかかる。
「安土……城!」
ハッとして由里は上を見上げた。
それは高くそびえたつ見事な城で、美しい、と見惚れてしまうほどだった。
(これが安土城!初めてみたー……って、当たり前か)
「あ、そういえば政宗さん、馬は?」
「政宗で良い」
「えっ……じゃあ、政、宗?」
「うん?」
ためらいがちに名前を呼ぶ由里に微笑ましい気持ちになる政宗。
「私たちが乗ってたあの子、途中で怪我、した?」
「……なぜだ?」
そういえば、先ほども馬のことを気にしていたな、と思い出す。
(よっぽど何かあるのか?)
「馬って均等に足音が聞こえるはずでしょ? それがちょっと不協和音みたいにずれていたから気になって。
たぶん左の後ろ脚だと思う。見てあげて?」
政宗は、自分がポカンと緩んだ顔をしていたことにしばらく気づかなかった。
そして、この自分より小さな小娘に、そんな能力があるのか、と少し感心した。
今共にしているのは、この戦乱の世を共にしている愛馬だ。戦には馬を連れて行くわけだし、自分の半身と言っても良い。
(俺が気づかなかったのに……由里が……)
「由里、お前は信長様に呼ばれている。
まずはその恰好を何とかしろ」
「!」
そういえば、と自分の恰好を思い出し、顔から火が出るような気分になる由里。
そう、キャミソールに短パンのままだった。
恰好自体もそうだが、政宗にこの姿で、馬の上でしっかりと抱かれていたのだ。
(た、確かにこれは……この時代にはそぐわないね)
秀吉は、政宗の馬に乗っていた由里に、降りやすいように手を差し伸べた。
「ありがとう」
(この秀吉という人は、世話焼きというか、親切な人なんだな)
由里はそう感じながら、秀吉の好意を受け入れて手をとって微笑む。
「!」
そんな由里の表情に、当の差し伸べた本人は見惚れているとも知らずに――。
そして由里は、ついに信長の膝元、
安土城に足を踏み入れたのであった――。